熊本地震の被害を受けた家屋の解体工事が始まった=14日午前10時40分、熊本県南阿蘇村立野、小宮路勝撮影
昨年4月の熊本地震で土砂崩れに9世帯が巻き込まれ、60歳代の夫婦が亡くなった熊本県南阿蘇村の新所(しんしょ)地区で14日、被害家屋の解体作業が始まった。地震から10カ月。ようやく一歩を踏み出すことになった。
昨年4月16日の本震で、崖の上にあった九州電力黒川第一発電所の貯水槽が崩落。土砂と大量の水がふもとの新所地区に流れ込み、9世帯の家屋のほとんどが全壊し、片島信夫さん(当時69)と利栄子さん(同61)が犠牲になった。
九電が貯水槽崩落と家屋被害との因果関係などを調べるため、現場の保全を住民に要請。壊れた家屋は手つかずで、土砂に埋まった家財道具や車も当時のままだった。調査が終わったため、解体が始まった。
この日は午前8時半すぎから、集落の入り口にある丸野政雄さん(62)の築180年近い木造家屋で、作業員数人が落ちた屋根を撤去。大黒柱や梁(はり)など基本構造は無事だったが、大量の泥水で土壁が崩れ、屋内には高さ数十センチの泥がびっしりと積もる。丸野さんは「丁寧に造られた家で、思い入れもある。現代では同じような家はなかなか建てられない」と話した。家屋は公費で解体するが、土砂の撤去は九電が行う。
九電は水力発電再開に向けた安全対策工事のため、地区の被害住民の土地を2年間借りる契約を結んだ。今後は土地を買い取る意向で、年度内にも買い取り価格などを示す見通しだ。だが、住民からは「移転ではなく同じ場所で住みたい」との声も出ている。(大畑滋生)