ミカエル・キングズベリー
フリースタイルスキー男子モーグルのワールドカップ(W杯)で今季、前人未到の種目別6連覇を達成したカナダのミカエル・キングズベリー(24)。その「絶対王者」が、開幕まで1年を切った平昌(ピョンチャン)五輪に向けて思いを語った。
参戦8シーズン目となった今季のW杯は、11戦を戦って自己最高の9勝。勝率は実に8割を超え、「今までの自分のキャリアの中でも、最高のシーズンだった」と振り返る。「最も大切なレースの一つだった」という平昌での五輪プレ大会もあっさりと制した。
向かうところ敵なし。それでも、滑る情熱を全く失わないことが、キングズベリーが持つ最大の強みだろう。理由は明快だ。
「僕が滑る一番の理由は、会いたい仲間がフィールドにいて、毎回彼らと滑ることを楽しみにしているから。勝つことだけが目的だったら、モチベーションなんてまず保てないよ。僕は、結果だけを追い求めているわけじゃない」
ただ、勝つたびに厳しさを増していく周囲の視線は感じている。「ここ2~3年は勝って当たり前、負ければ文句を言われるという状態になってしまった。みんな、僕は失敗しないと思っている。その点はすごくプレッシャーを感じる」。だが、息苦しさは感じない。「友人たちと滑ることがとにかく楽しい。だから、スタート台に立てば雑音は一切気にならない」
そんな王者が大きな刺激を受けたのは、3月にスペインで開かれた世界選手権だ。優勝候補の筆頭として挑んだが、モーグル、デュアルモーグルを制したのは堀島行真(いくま)(19)=中京大=だった。
「行真と最初に滑ったのは2年前くらい。当時から良い選手だと思っていたけど、年々レベルアップしている。今回の彼の2冠は全く不思議じゃない」
堀島を前にしたキングズベリーは、本気だった。「行真の調子がいいことは分かっていた。普通に滑っても勝てない。そこで、スピード重視の作戦に切り替えたんだ。でも、勝てなかった」。優勝こそ逃したが、久々に出てきたライバルの存在に笑みが浮かんだ。「今後の大会で一番大きなハードルになるのは、行真だろう。どうやって彼に勝つか。競争し合うのが本当に楽しみだ」
多くの大会の優勝を経験しているキングズベリーだが、自身の平昌五輪への意欲は特別だという。「今まで数え切れないほど勝ってきたし、欲しい物はほぼ手に入れてきたと言ってもいい。ただ、そこに五輪の金メダルだけがない」。初出場だった2014年ソチ五輪は2位。「勝てるはずのレースで勝てなかったのはショックだった。五輪はモーグルを始めた頃からの夢だから」
一方で、本当の目標は別にあるとも明かす。「選手としてのピークに近づいている。最も大事なことは、人生最高の滑りを五輪で見せること。最高の一本で負けたとしても、僕は何も言うことはない」
最高難度のエア「ダブルフルツイスト」(伸身後方宙返り2回ひねり)を自在に飛び、さらにターン、スピードも超一流。すでに三拍子そろっていると言われるが、現状の技術には全く満足していない。「成長する余地はいくらでもある。そのために練習するんだ。できないことができるようになるのは、いつだって楽しい」(吉永岳央)
Mikael Kingsbury 1992年7月、カナダ・ケベック州生まれ。10歳でモーグルを始め、2010年に18歳でW杯初勝利を挙げた。W杯は歴代最多の通算42勝。世界選手権では13年大会のモーグル、15年大会のデュアルモーグルで金メダル。14年ソチ五輪モーグルは銀メダルだった。