広島の加藤
(7日、広島4―1ヤクルト)
あとアウト二つ届かなかった。30年ぶりとなる新人の初登板でのノーヒットノーラン。九回1死一塁。広島の加藤は、決め球フォークをバレンティンに左前に運ばれた。
「こんなもんかな。そんなに甘くない。記録は知っていたけど、意識はしていなかった」
昨季の沢村賞左腕ジョンソンが体調不良で、2日前に告げられた登板。7四球と球は荒れた。それでも腕を振った。150キロ超の直球で押し、フォークで三振に斬った。連打を浴びた九回1死で降板も、1失点で勝ち星を手にした。
慶大からドラフト1位で入団した。どっしりした体格ながら、身長176センチと投手としては小柄。神奈川・慶応高で捕手から投手に転向し、大リーグ投手を研究しながら、体を大きく使う独特のフォームを固めて、剛球をものにした。
頑固だ。15歳年上の捕手、石原のサインにも何度も首を振った。1月の入寮では確定申告の本を持ち込み、「何も知らずに丸投げするのも嫌だったので」。記者にとっても手ごわい。走力を聞けば、「速く走れば、勝てるとは思っていないんで」と返ってくる。
1987年の近藤(中)以来2人目の快挙はならなかったが、広島の新人が先発で初登板勝利を挙げたのは昨年の横山に続き11人目。「すごくホッとしています。ヒットはもう少し打たれていいけど、しっかりと投げたい」。はにかんだお立ち台。マウンドでのふてぶてしさは消えていた。(吉田純哉)