朝日新聞のインタビューに答えるトリシェ・前欧州中央銀行(ECB)総裁=2日、フランス・パリ、杉本康弘撮影
フランス出身の欧州中央銀行(ECB)前総裁のジャンクロード・トリシェ氏が2日、朝日新聞のインタビューに応じた。7日に決選投票を迎える仏大統領選では、欧州単一通貨ユーロからの離脱が大きな争点の一つとなっている。トリシェ氏は、右翼・国民戦線(FN)のルペン氏が掲げるユーロ離脱について「経済的なカオス(混乱)を引き起こす」と指摘。親欧州連合(EU)のマクロン前経済相が当選すれば、ユーロ圏の改革が前進するとの期待を示した。
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欧州では1999年に各国の通貨を統合し、現在EU28カ国のうち、独仏など19カ国が単一通貨としてユーロを使っている。ルペン氏は、当選した場合は国民投票でユーロ離脱を問い、自国通貨フランを復活すると訴えており、離脱が現実味を帯びかねない。
トリシェ氏は、離脱が現実となれば、仏国債の信用力が落ちて売られ、損失を被る投資家が出ると指摘。フランも主要通貨に対して下落する可能性が高く、輸入品などの物価上昇を招くと強調。「輸出企業を含め多くの問題を引き起こし、人々の購買力も落ちる。経済的、社会的なカオスを招く」とし、「離脱には全く意味がない。フランスは完全に孤立してしまう」と警告した。
ただ、世論調査では70%以上が離脱反対だとして、「このカオスが現実になる可能性はかなり低い」との見方も同時に示した。
一方、ユーロ圏統合の推進が持論のマクロン氏は、EU予算とは別にユーロ圏だけの共通予算の創設や、ユーロ圏の政策調整を担う議会の創設などを訴える。
トリシェ氏は、2010年以降のユーロ危機を受けて財政危機国を支援する基金が創設されるなど、「ユーロ圏の改革は進んだが、まだなすべきことは多い」と指摘。ユーロ圏の共通予算について「(景気が悪化した際に公共投資などの財政出動が可能となり)財政の安定機能の役割を果たせる」と述べ、ユーロ圏の議会創設も「よいアイデアだ」と支持した。
また、マクロン氏が勝利すれば6月の仏総選挙が重要になると強調。総選挙でマクロン氏支持派が議席の過半数を占めれば、「完全に信任を得たことになり、フランスはドイツとともに(新たな制度の)創設を提案して改革を前進させるだろう」と述べ、ユーロ圏統合の推進に期待を示した。