記者を相手に現役時の「芸」を再現する浅香山親方。シャツが古くて身ごろまで破れたが、ポケットはきれいに取れた=国技館、恵原弘太郎撮影
大相撲夏場所7日目。隠岐の海は、大関照ノ富士に敗れて1勝6敗となった。しかも唯一の勝ち星は、横綱鶴竜が休場した日の対戦相手が隠岐の海だったという不戦勝で、まだ、まともな勝ち星がない。「こういう時は、ガーッと験直(げんなお)しですね」。力士の験直しといえば、酒だ。
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酒を相撲隠語で「馬力」といい、力士は巨体に任せてとにかく飲む。白鵬は氷を入れるアイスペールにウイスキーを注ぎ、みんなで回し飲みするのが好きだ。北の湖親方はお湯のような熱かんを愛した。茶わんでぐーっと飲み干し、「腹の底から力がわく」と語っていた。
浅香山親方(元大関魁皇)は現役時、妻充子さんから叱られてもやめられない酒癖があった。ひとのワイシャツの胸ポケットをちぎり取ってしまうのだ。指を入れスナップをきかせた瞬間、スパンと取れる。以前、充子さんがこう嘆いていた。「ご機嫌で帰ってきて『大漁だ!』って。人様のポケットが何枚も……」
この技の生みの親は元大関武双山の藤島親方。以前、居酒屋で隣に座った2人組の男性から話しかけられた。「自分、専修大の後輩です!」。そうか、飲め、と飲ませたのはいいが、その後輩が、親方のネクタイをくれとせがんだ。よし、やる。すると、もう1人の男性が、「自分にも何かください!」。よし、と親方。ネクタイを渡した男性のポケットをちぎり取り、もう1人に渡した。
ただ、ちぎった人にはワイシャツ代を渡しており、藤島親方は「お金のかかる芸なんですよ」。(抜井規泰)