朝日新聞記者チームが提案した災害ポータルサイト=「熊本地震×検索データ 支援・防災にいかすには?」の発表から
■熊本地震×ヤフー検索データ
震災時の検索データ、生かすには? 熊本で研究者ら知恵
検索データが語る熊本地震
熊本地震に関する検索データを分析し防災や支援にいかす道を探ろうと、熊本大学で5月28日に開かれた催しでは、熊本大チーム、弁護士チーム、YMCAチーム、JVOADチーム(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)、朝日新聞記者チームの計5チームが地震後の経験をもとに分析したデータから、様々な課題を指摘し、新たなアイデアを披露した。朝日新聞記者チームの発表内容を紹介する。
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熊本地震の被災地で取材を続けてきた朝日新聞のチームは、「被災者に役立つ報道ができていたか」との視点から、車中泊などに関するヤフーの検索データを分析。見えてきた反省やニーズも踏まえ、リアルタイムのデータと平時の報道の蓄積を活用して情報提供する「災害ポータルサイト」の開発を提案した。
2回の震度7に加え余震も頻発した熊本地震では、避難所に身を寄せない「車中泊」や在宅避難も多く、被災者の多様なニーズへの対応が課題に浮かんだ。災害報道には主に、①被害の実態を国内外に伝える②被災者に支援の情報を届ける――役割がある。朝日新聞は地震後、最も多い時で120人の記者が現地で取材にあたったが、②を十分に果たせなかった点があったのでは、と考えた。
データ分析にあたり、行政による実態把握が容易でなかった車中泊に着目。まず熊本県による県民アンケート(2016年8~9月、約3千人回答)の結果から、「最も長い期間避難した場所」を「自動車の中」とした回答を車中泊の避難者として抽出。「避難先で困ったこと、苦労したこと」としてトイレや食糧、燃料など物資の入手を挙げる傾向は、車中泊はそれ以外と比べて高かった。
とりわけトイレ事情は避難者を悩ませた。地震発生後1カ月間にヤフーで検索された関連語句を抽出すると「簡易トイレ」が目立った。この頃、被災地では、車中泊の避難者に肺塞栓(そくせん)症(エコノミークラス症候群)が相次いでいた。断水などでトイレが使えなかったことが一因と考えられており、用便を減らそうとして水分補給を抑えるリスクを報道機関は伝えたが、「ではどうすればよいか」と解決策を示す必要性も見えてきた。
提案した災害ポータルは、これまでの災害報道で蓄積した経験や熊本地震後の検索データに基づき、必要な情報を「住まい」「支援物資」「トイレ」など20項目に分類。サイトは常時開設し、例えば「備蓄」のアイコンを押すと、過去の報道から役立つ備蓄品などの情報が手に入る。地震が起きると有事モードに切り替わり、インターネット上の検索データに連動して関心の高い項目順にアイコンが表れる仕組みだ。
災害発生直後はつかみにくい被害の全体像をいち早く伝える仕組みも検討した。現場で取材した被害状況や被災者の要望を記者が入力すると自動的に集約し、刻一刻と地図上に表示するものだ。この仕組みを被災地で活動するボランティアらと共有すれば、網羅的で精度の高い情報を届けられると提案した。
チームは熊本、高知の各総局、東京社会部、デジタル編集部の記者とデザイナーで構成。発表した原田朱美記者は「人々のニーズに応えられているか、悩みながら取材している。命を救えるメディアでありたい」と話した。蒲島郁夫熊本県知事は「局面によって(被災者の)ニーズの度合いは変わる。現場の記者の後方支援をする本社がデータ分析をして現場に届けるというのも一策ではないか」と講評した。(田中久稔)