「竜馬がゆく」で坂本竜馬が絶命する場面。「惜しむように」が「惜しげもなく」に書き直されていた=23日、大阪府東大阪市の司馬遼太郎記念館、上田潤撮影
作家の司馬遼太郎(1923~96)の代表作「竜馬がゆく」最終回と「坂の上の雲」第1回の自筆原稿が見つかった。司馬遼太郎記念館(大阪府東大阪市)が23日、発表した。どちらも存在しないと思われていた原稿で、推敲(すいこう)の跡から司馬の作品への思いが伝わってくる貴重な発見だ。
「竜馬がゆく」は62~66年、「坂の上の雲」は68~72年、いずれも産経新聞に連載された司馬の代表作。「竜馬」は連載5回分23枚、「坂の上」は連載6回分24枚、400字詰め原稿用紙で計47枚が見つかった。東京の古書店から連絡を受けた記念館が鑑定し、今月はじめに買い取った。
「竜馬」の自筆原稿が見つかったのは初めて。ラストシーンの「天が、(略)その使命がおわったとき惜しげもなく天へ召しかえした」という、作品の坂本竜馬像を象徴する部分が含まれている。激しく手を入れた跡が残っており、最初に「天はその若者を惜しむように召しかえした」と書いた後、「惜しげもなく」と、竜馬像がより印象的に伝わるような修正がされていた。
「坂の上」の原稿には有名な書き出しの「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」が記されている。自筆原稿の大半は日本近代文学館に寄贈されているが、欠落があり、冒頭は失われたと思われていた。加えて、文学館にも保存されている第28回(4枚)の別原稿が見つかった。表紙に「ボツ」と書き込みがあり、軍艦の名前を間違えたことから、書き直して差し替えたと見られる。
司馬の義弟で記念館館長の上村(うえむら)洋行(ようこう)さんは「全くないと思っていた原稿で、見たときに心臓が拍動した。竜馬の最期を書くにあたっての思いを感じる」と話している。原稿は7月1日~8月31日、記念館(06・6726・3860)で特別展示される。(野波健祐)