ソーシャルメディアの利用履歴から有権者の性格を丸裸にし、その人の心に突き刺さる選挙広告を配信する。そんなデータ分析会社が、米大統領選で勝利したトランプ氏の陣営にいた。「ビッグデータ」が選挙の戦い方を変えつつある。
細身に黒いスーツの金髪男性が、壇上をせわしなく歩き回りながら、聴衆に語りかける。
「私たちは何十万人もの米国人を調査しました。米国の成人全員について、性格を予測するモデルを作れるのです」
英国のデータ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」の最高経営責任者のアレキサンダー・ニクス氏。米大統領選を控えた昨年9月、ニューヨーク市内のホテルで講演したときの映像がネット上にある。
CA社が誇るのは、有権者個人の性別や人種、年齢などだけではなく、どんな性格の持ち主かまでを分析する心理学の技術だ。トランプ氏陣営のほか、英国の欧州連合(EU)離脱を主導した独立党の党首だったナイジェル・ファラージ氏らの運動に加わったとされる。
性格がわかれば、有権者それぞれに「最適」な選挙広告を届けられる。ニクス氏は講演で、銃規制への反対論を例に語った。不安を感じやすい性格の人には護身に役立つという「実利」を説明する一方で、他人への同調性が強い人には銃所持を認めてきた米国の「歴史」を強調すると使い分ける。
欧米メディアの報道では、昨年の米大統領選では見出しや写真などが少しずつ異なる17万5千通りの広告をフェイスブック(FB)で試した。対立候補のクリントン氏の支持者に投票意欲を失わせるため、「ハイチ地震復興の支援金がクリントン財団関係者の懐に入っていた」とハイチ系住民の多い地区を狙って配信する戦術もとったという。
これを可能にしたのは巨大なデータベースだ。まず、FBの利用履歴を調べることで、有権者の性格を把握。さらに買い物履歴や通っている教会の名簿などブローカーから購入した情報と組み合わせたという。広告ごとに効果を上げやすい人物を見つけるシステムを、スイス誌は「人間検索エンジン」と呼んだ。
どれほどの効果を上げたかには…