コンクールに向けて練習する杷木中学校吹奏楽部の部員たち=福岡県朝倉市杷木池田
九州北部豪雨で大きな被害が出た福岡県朝倉市杷木(はき)で唯一の中学校、杷木中の吹奏楽部が26日、福岡市である筑後地区中学校吹奏楽コンクールに出場する。避難所暮らしが続く生徒もいるが、地域の人たちの心の支えになりたいとステージに臨む。
21日午前、杷木中の音楽室で19人の部員全員がコンクールに向けて練習に励んだ。体育館は避難所になり、校門付近には自衛隊の設置した仮設風呂や給水車が並ぶ。福岡、大分両県で35人が死亡した豪雨災害。杷木では住民21人が亡くなり、6人が行方不明のままだ。
5日昼過ぎから激しい雨が降り、朝練や授業を終えた部員たちは帰宅。そのまま休部となった。コンクールは3週間後に迫っていたが、副部長の稲舛(いなます)由衣さん(3年)は「『コンクールはどうなるの』とはとても言い出せなかった」。
地域には杷木中後援会という組織があり、世帯に中学生がいなくても部活動費を支援する仕組みがある。吹奏楽部も年に7~8回、地域の運動会や祭りに出かけて演奏し交流を深めてきており、身近な存在だ。
顧問の伊藤陽子教諭もどうすればいいか悩み、保護者会長に相談した。すると「3年生の8人には最後のコンクールになるから」と活動再開を後押しされた。
1学期は事実上打ち切りとなり、11日に夏休みが始まったこともあり、12日から練習を始めると、その日からほぼ全員が登校してきた。楽器は学校に置いていたので無事だった。だが、演奏してみると「つらさや悲しさが音で伝わってきた」と伊藤教諭。部員たちは、被害に遭った郷里を目の当たりにしながら登校する。家に土砂が流れ込み避難所から通う部員もいる。
それでも部員たちは必死にハーモニーを奏でる。稲舛さんは「音楽で災害にあった地域そのものをよくすることはできないけれど、人の気持ちを前向きにすることはできるかもしれない」。橋詰凜音(りんと)さん(3年)は「音楽の力で、今までお世話になった人たちに感謝の気持ちを伝え、地域の人たちの心の支えになりたい」と話している。
コンクールでは、課題曲の「インテルメッツォ」(保科洋作曲)に加え、自由曲として、雪の中で力強く、神に祈りを捧げながら生きてゆく人々をイメージした「コタンの雪」(福島弘和作曲)を演奏する。(小原智恵)