「原爆の図」を鑑賞する俳人の金子兜太さん(左)=埼玉県東松山市、関田航撮影
朝日俳壇選者の俳人・金子兜太さん(97)が、画家の丸木位里(いり)・俊夫妻による大作「原爆の図」シリーズを展示する原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)を初めて訪れた。原爆の惨禍が描かれた大画面を前に、感じたことを語り、受けた思いを句に詠んだ。(小川雪)
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「これは、群衆ですな。妙なリアリティーがある」。展示室に足を踏み入れた瞬間、金子さんがつぶやいた。炎に包まれ、水を求めて逃げ惑う人々。折り重なる死体の山。作品はどれも、大勢の人間で画面が埋め尽くされている。同館学芸員の岡村幸宣さん(43)が「丸木夫妻が最も伝えたかったのは生身の人間の痛み。どの絵にもキノコ雲を描かず、あくまで人間を描いた」と説明する。
金子さんは、原爆の図を印刷物では見たが、実物は初めて。焼けただれた体でさまよう人々を描いた第1部「幽霊」をじっと見つめるうち、自句を口ずさんだ。
《彎曲し火傷(かしょう)し爆心地のマラソン》
1961年に、転勤先の長崎で詠んだ代表句の一つ。爆心地に至る峠道を走ってくるランナーを見て「人間の体がぐにゃりと曲がり、焼けて、崩れる映像が浮かんで」生まれた句だ。「この句と原爆の図に重なる部分がある」。金子さんは俳句を「優れた映像的イメージを頭の中で作り出し、それを書きとめたもの」と捉える。両者とも、表現者の内的衝動の結実であり、湧きあがる映像を感じるという。
一方で「泥つきの現実をありていに描いた丸木夫妻の絵はより文学性が高く、俳句はより映像的」と違いも口にした。また、絵の中央に立つ裸の女性に目をとめると「何も隠さないぞという姿勢を感じる」と感心した様子で語った。
炎にまかれた人々を描いた第2…