一回に二盗を決めた杉本涼君(右)=10日、阪神甲子園球場、加藤諒撮影
(10日、高校野球 花咲徳栄9―0開星)
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山あいのふるさとを離れ、甲子園を目指してきた。10日の第2試合で花咲徳栄(埼玉)と対戦した開星(島根)の杉本涼君(2年)は、中国山地の集落で磨いた選球眼を武器に夢の舞台に立った。
杉本君は広島県北部の三次(みよし)市君田(きみた)町の出身。島根県境に近く、ヒマワリの栽培が盛んなのどかな町だ。
通っていた市立君田中の同級生はわずか12人。小学2年の時に祖父の勧めで野球を始めたが、中学校の野球部はチームを組むのがやっとの小所帯だった。
杉本君の中学入学と同時に監督になった保健体育教諭の西岡真さん(56)は、チームの打力の弱さを克服するため策を打った。「ツーストライクまで待ってから打て」
ボールに目を慣らすのと、相手投手の投球数を増やすのが狙いだが、「次の1球への集中力が増して球が見えるようになった」と杉本君。球を見極められるようになると、相手投手の持ち球や配球を覚える観察力にも磨きがかかった。
さらに西岡さんは、球をひきつけて打つスイングも伝授。空振りしそうな鋭い変化球をファウル出来るようになった。中学2年の時には、わずか9人のチームは約20チームが参加する地区大会で初優勝した。
「甲子園に行きたい」と選んだ開星は、部員が85人。甲子園は春夏13回目の強豪校だ。レギュラー争いとは縁のない部活から、有力選手が集まる大所帯へ。それでも2年生ながら、今春からレギュラーに定着。170センチに届かない身長だが、「選球眼がよく、長打や犠打など器用に野球ができる」(山内弘和監督)ことが評価された。
夏の島根大会全6試合は3割台の打率に加えて四死球10。出塁率は5割超で、今夏の甲子園出場選手のうち、地方大会での1試合あたり四死球数は2番目に多い。
この日の試合には、西岡さんや君田中の野球部員らが応援に駆けつけた。杉本君は一度の空振りもなく、4打数3安打の活躍を見せたが、0―9で敗れた。試合後、「君田中の後輩たちが甲子園に来たいと思うようなプレーをしたかった。勝って笑っている姿を見せられなくて残念。次は成長した姿を甲子園で見せたい」と、泥まみれのユニホーム姿で語った。(市野塊)