シリアとイラクへの渡航が制限されたパスポートを手に会見する杉本祐一さん=東京・霞が関
シリアへの渡航計画を理由に、国から旅券の返納を命じられた新潟市のフリーカメラマンが、憲法が保障する渡航や報道の自由を侵害するなどとして、命令の取り消しなどを求めた訴訟の判決が19日、東京地裁であった。古田孝夫裁判長は「憲法がいかなる場合にも生命・身体より報道の自由が優先する、としているわけではない」と指摘。国の判断は適法だったとしてカメラマンの請求を退けた。
訴えていたのは、海外の紛争地で取材経験がある杉本祐一さん。
判決によると、杉本さんは2015年2月末にトルコからシリアに入国して取材する計画だったが、外務省は同年2月上旬、渡航前の杉本さんに旅券の返納を命じた。その後、杉本さんは新しい旅券の発給を申請して交付されたが、シリアとイラクへの渡航を制限する条件が付いた。
同年1~2月には、過激派組織「イスラム国」(IS)が、拘束していた日本人ジャーナリストら2人を殺害したとする映像が公開された。判決は、ISが他の報道関係者を狙う可能性があったと指摘。杉本さんが「通常の邦人以上に精緻(せいち)な情報収集をし、危険性を分析していたとは認められない」と述べ、渡航すれば生命・身体に危害が及ぶ恐れが高いとした外相の判断は合理的だったと認定した。
判決は「命をかけても取材や報道を遂げようとする姿勢は誠に崇高だ」としつつ、杉本さんが実名で公表した渡航計画がインターネットで現地などにも拡散する可能性に言及。「(杉本さんの)安全対策に外相が重大な疑義をもったとしてもやむを得ない」と述べ、外相の判断は不当ではない、と結論づけた。(河原田慎一)