天理―明豊 九回裏明豊無死満塁、代打三好は左中間に満塁本塁打を放ち生還。(右から)三塁走者佐藤祐、三好、迎える三村⑥、一塁走者吉村、二塁走者本多=小林一茂撮影
(20日、高校野球 天理13―9明豊)
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負けたのに、ずっと笑顔でしゃべりまくった。ある記者は思わず、「勝ったチームの選手みたいやね」とツッコんだ。
明豊の捕手、吉村建人(3年)はおもろい男だ。大阪から大分へ進学して2年4カ月あまり。一切抜けない関西弁で、試合後の取材スペースではいつも“独演会”。この日は準々決勝で天理に敗れたあと、「もうね、甲子園を楽しみました。楽しみすぎました」。満面の笑みが広がった。
この日は一回にいきなり6失点。先発の橋詰が天理の7番安原と8番山口に連続ホームランを浴びた。吉村はこの回を思い出して、こう言った。「安原君には、外角の緩いスライダーをしっかりためて打たれました。スライダーをバックスクリーンに持っていかれたんは、キャッチャーやってて初めてで、いいバッティングやなあと思って見てました。下位に2発打たれて、天理打線のすさまじさを思い知りました」
明豊は一回に2点、三回に1点を返した。だが六回に2番杉下から3連続長打を許し、また山口に一発を放り込まれて5失点。七回にも2点を奪われた。「ほんまに鋭い振りで、拍手したくなったぐらいでした」。そして聞いてもいないのに、二回から七回途中まで投げた2番手の溝上の様子について教えてくれた。「溝上は大阪の中学で天理の安原君と同じやったんです。そやからあいつ、いつもは僕のサインにあんまり首振らないんですけど、安原君のときに変化球のサイン出したら、首振ってまっすぐばっかり投げてました。安原君のときだけ『オリャー』って叫びながら投げてましたわ」
3―13で迎えた九回、エースを降板させた天理に対し、明豊は怒濤(どとう)の反撃を見せた。まずは代打三好の満塁ホームラン。このとき一塁ランナーだった吉村は、また裏話を教えてくれた。「ランナーコーチにおった松谷が僕に言うたんです。『三好が満塁ホームラン打つから、ゆっくり走ってホームまで行けるぞ』って。そしたらほんまにその通りになった。感動もんでしたよ」
球場全体が異様な雰囲気になり、明豊を後押しする応援が広がっていった。さらに2点を加えたが、最後は本多がファーストフライでゲームセット。次のバッターだった吉村は、ゆったりした間隔で手をたたきながら整列へ向かった。なぜ手をたたいたのか尋ねると、こう言った。「ほんまに、高校野球に悔いなしですよ。お客さんにあんなに応援してもらってベスト8まで来ましたから。すがすがしく終わろうと思ったんです」
神村学園との3回戦も壮絶な試合だった。明豊は九回に3点差を追いつかれ、延長十二回に3点を勝ち越されたが、その裏に逆転サヨナラ勝ちを収めた。その試合で、吉村の心に残った瞬間があるという。「九回の相手の攻撃が始まる前、投球練習の球を受けてたら、『やってきたこと全部出して逆転すんぞ』って声が向こうのベンチから聞こえてきたんです。そのとき、『これが高校野球やねんなあ』って思って。そういう場所に、いま自分がおるってことがうれしかった。感動で泣きかけました」
◇
吉村君に進路について尋ねると、地元大阪にある大学に進む予定だと教えてくれました。「どう思います? ええとこ就職できますかね?」と逆質問されたので、「えらい先の話するんやな」とツッコんだら、大笑いしてました。最後に改めて「ほんまに一生ずっと言えますよ。俺らは甲子園ですごい試合したんやで、って。あー、楽しかった」と言った吉村君。「大学でもがんばりや」と声をかけたら、「その前に国体で天理と試合して、ボコボコにしたります」と言って、爆笑してました。その明るさがあれば、どこでも生きていけますよ。(篠原大輔)