復帰戦で銀メダルとなり、家族や仲間に囲まれた吉田愛(右から2人目)。中央はクルーの吉岡美帆、右は夫の雄悟さん
愛知県蒲郡市沖の三河湾で22日まで開かれたセーリングのワールドカップ(W杯)で、女子470級の吉田愛(36)と吉岡美帆(27)=ともにベネッセ=が銀メダルを獲得した。かつて世界ランキング1位だったスキッパーの吉田は今年6月に出産し、これが復帰戦。メダルを目指す2020年東京五輪へ、いい再スタートを切った。
2位の表彰台に長男ルイくんを抱いて上がった吉田は「陸で顔を見るとホッとする」。5位だった昨年のリオデジャネイロ五輪以来の公式戦。「1年間休んでいたので、まずは無事に全レースちゃんと出たいと思っていた」と笑顔を見せた。
8レース中、優勝した世界ランキング1位のポーランド組は3レースで1位、吉田組と4位スイス組がそれぞれ2レースで1位だった。「ポーランドは着実に力をつけていた。この大会で実力差が分かった。あと3年、東京に向けてどう取り組んでいけばいいのか分かった」と振り返った。
吉田は旧姓近藤。鎌田奈緒子と組んで「コンカマ」と呼ばれていた2008年7月、世界ランキング1位になった。同年の北京五輪は14位。別のクルーと組んだ12年ロンドン五輪も14位。結婚して、吉岡とペアを組み、リオ五輪に出場した。「次の五輪が東京じゃなかったら、やめていたかもしれない。続けると決めた時、絶対に今度はメダル、と思って始めた」
子供が生まれても東京五輪を目指す、とも決めていた。「リオの前からJISS(国立スポーツ科学センター)の講座でママアスリートの方の話を聞きに行っていた」。妊娠中、出産後もJISSのトレーナーからトレーニングの指導を受けた。「早い復帰のためにコンディショニングをしていくというテーマで今も続けています。もちろん筋力も持久力もすべて落ちました。腕は2センチくらい細くなった。強風の中で40~50分のレースを2、3本するので、帆を操る腕の力がなくなると、長い時間強くできなくてスピードに影響してくる」
1年のブランクで体力以上に判断力が鈍ったと感じる。「スタートなどせめぎ合いの場面で、ひらめいて行動に移すまでに時間がかかっちゃって、考えている間に順位を落とすことも、今大会はありました」
吉田が不在の間、吉岡は外国選手とレースに出るなどして、技術を磨いて待った。アメリカズカップの日本チームクルーも務めた男子470級ロンドン五輪代表の夫、雄悟さん(33)は今大会、コーチボートに乗って支援。レース中は実母がルイくんの面倒を見た。
吉田は「セーリングは海面のリサーチも兼ねて事前に練習をするので、海外遠征が1カ月くらいになることもある。その間、子供と離れると心配でレースに集中できないと思うので、母にお願いして一緒に来てもらう予定です」。家族や関係者らとともに挑む五輪となる。(松本行弘)