産経ニュースで配信された10月19日付のコラム「産経抄」
産経新聞のウェブ版「産経ニュース」で、「日本を貶(おとし)める日本人をあぶりだせ」という見出しがついたコラムが配信され、ネット上で批判が集まっている。あぶり出した後でどうしようというのか。こうした言葉が、排他的な言説を拡散し、増幅させることにならないか――。
「あぶりだせ」の見出しは、10月19日付産経新聞1面コラム「産経抄」を産経ニュースが配信した際につけられた。コラムは、「報道の自由度ランキング」で日本の順位が低いのは、「日本に対する強い偏見」に加え、「一部の日本人による日本の評判を落とすための活動」が助長しているためだ、などと批判する内容だ。紙面に見出しはついておらず、本文中にも「あぶりだせ」という表現はない。
朝日新聞の調べでは、産経抄に言及したツイートの数は、配信された19日から2日間で約2万件あった。大半はウェブ版の見出しや、内容に批判的なものだった。一方で、「全くその通り。反日日本人を徹底的にあぶりだすべきだ」など賛同する投稿もあった。
見出しについて、約1万2600人のフォロワーがいる編集者の早川タダノリさんは「『非国民狩り』を提起していて、もはや報道ではなく憎悪扇動ビラ」と厳しく批判するツイートを投稿した。
「異なる者に対して攻撃をそそのかす言説をまき散らす団体に、ジャーナリズムを名乗る資格はない」とツイートした文化人類学者の亀井伸孝・愛知県立大教授は、取材に対して「本文に書かれていないことを見出しにとり、SNSで拡散されて話題になることが目的化されているのでは。大手メディアは自らの言説が何万、何十万という単位で増幅される立場なのだから、その弊害に自覚的であるべきだ」と話す。
「ネットと愛国」の著書があり、ヘイトスピーチ問題に詳しいジャーナリスト安田浩一さんも「大手メディアによる排外的な論調がはびこることで差別のハードルが下がり、一般の人にも排他的な主張が広がる悪循環が起きている」と指摘した。
2日、国会内で開かれた人種差別撤廃基本法の実現を求める集会でも、ネット上の排外主義的な主張が出版物になることなどで「信憑性(しんぴょうせい)」を増し、拡大している実態が報告された。報告者の韓東賢(ハントンヒョン)・日本映画大准教授(社会学)は朝日新聞の取材に「ネットでは新聞の部数とは関係なく、フラットに記事が読まれ、流通する。一般紙のサイトに排外、排他主義的な主張が載ることで重みが増し、そのような行動を正当化し、根拠づけることにもなりかねない」との懸念を示した。
産経新聞社広報部は朝日新聞の取材に「個別の記事に関することにはお答えできません」としている。
■背景にメディア環境…