青山スポーツ新聞編集局の小島早織さん=東京都渋谷区渋谷4丁目
第94回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)が来年1月2、3日に行われる。4連覇を狙う青学大、10月の出雲駅伝を10年ぶりに勝った東海大、11月の全日本大学駅伝を20年ぶりに制した神奈川大の「3強」を軸に、例年になく混戦模様の大会の行方を各大学の学生新聞記者に占ってもらった。同世代。日ごろから選手のそばで取材しているからこそわかる!? 総合優勝はずばりこの大学――。
年の瀬のこの時期、各大学の学生新聞はことさら力が入っている。新年の一大イベント、「箱根」特集を総力取材で仕上げ、キャンパス内外で存在感を放つためだ。
青山スポーツ「3、4年生多い青学が有利」
「アオスポ」こと青山スポーツ12月17日号の1面トップの見出しは、「最後の1冠は譲れない 箱根駅伝4連覇」。3大駅伝で6度の区間賞を獲得している田村和希(4年)の大きな写真をあしらった。
編集局の小島(おじま)早織さん(2年)は「今季は出雲2位、全日本3位と優勝できず、選手たちは箱根に懸けている」と代弁する。スピードランナーをそろえる東海大を手強い相手と見ているが、2年生に主力が多い点に小島さんは注目。「箱根は経験豊富な4年生の力が発揮される場所。3、4年生が多い青学が有利では」と話す。
東海スポーツ「青学阻止できるのは東海大だけ」
一方、東海大の「東海スポーツ」1面トップには「箱根駅伝初制覇へ」の見出しが堂々と躍る。編集部の野極梨花さん(4年)は「持ちタイムでは、5千メートル、1万メートル、ハーフマラソンのすべてで東海大がトップ」。青学大4連覇を阻止できるのは、「東海大だけ」と太鼓判を押す。
早稲田スポーツ「安井5区なら往路優勝見える」
昨年度の箱根3位の早大はどうか。「早稲田スポーツ」1面の見出しは、「目指すは総合優勝のみ 安井 山を制す」。3年連続の5区が濃厚で、区間記録の1時間12分切りを視野に入れる駅伝主将の安井雄一(4年)を1面でクローズアップした。早稲田スポーツ新聞会の鎌田理紗さん(3年)は、安井が5区なら往路優勝が見えると期待するが、総合優勝は「東海大」と予想した。
なぜか。青学大の原監督が今年度の箱根駅伝の作戦を、「ハーモニー大作戦」としたことに、「全日本がちぐはぐだったのを本当に気にしていたんだなと思った。それだけ切実ということ」と分析。王者青学は、前回大会までは往路復路ともに区間ごとに適材適所の逸材がいたと感じたが、「今年度の青学は6区くらい。特殊区間に対応できる選手が減っている」と鋭く切り込んだ。
前回2位で、2009年から続く「10年連続3位以内」に挑む東洋大についても、「早稲田スポーツ」の鎌田さんは冷静に分析。「(3年連続の箱根となる)山本修二君(3年)は強いと思う。けれど、(6区途中までトップを独走、5位だった)全日本のようにはいかない」
早大については「身内」だけに評価は辛口で、「例年より選手層が薄い」。上位選手の「Aチーム」が10人しかおらず、エントリー16人に「Bチーム」の選手も入っているからという。「10人そろうのか。たたき上げ選手が出てくるのが早大の強みだけど、未知数すぎる」と心配している。
駒大スポーツ「長い距離になるほど強い」
箱根で過去6度の優勝、学生長距離界を引っ張ってきた伝統の駒大は、前回大会ではかろうじてシード圏内を守る9位に甘んじた。「コマスポ」こと駒大スポーツは1面のトップ見出しを「再起を目指す 駒大」と打った。
今夏にあったユニバーシアードのハーフマラソンでは、片西景(3年)が金メダル、工藤有生(4年)が銀メダルと上位を独占した明るい兆しがある。この2人が1、2区に配置されれば強力だ。11月19日の上尾ハーフマラソンでも、伊勢翔吾(3年)が1時間3分10秒をマークするなど好記録を出した選手も多く、全体が底上げされた印象がある。
駒大スポーツ編集部の石曽根和花さん(2年)は「ロードの駒沢と言われるし、長い距離になるほど強いのが駒大」。3大駅伝で最も力を発揮しやすい大会が箱根と見る。「総合優勝の可能性はある。駒大、東海大、東洋大、神奈川大と混戦だし、『3強』とは思わない」と話した。
各大学、神奈川大に警戒心あらわ
青学大、東海大、早大、駒大の4大学の学生記者とも総合優勝予想に、全日本覇者の神奈川大を挙げなかったが、優勝争いには絡むと予想した。青学大「アオスポ」の小島さんは、「全日本の優勝を予想していなかっただけに怖い存在」。「東海スポーツ」の野極さんも「全日本では全区間でブレーキがなかった。ミスのない走りをしてきそうだ」と警戒する。
その神奈川大には学生新聞がないが、大学が体育会の協力を得て「神大スポーツ」を発行している。12月号では全日本大学駅伝のゴールテープを切ったエースの鈴木健吾(4年)の写真を1面に大きく使って紹介。神奈川大職員によると、学内で縦1メートル横4メートルほどの旗に応援メッセージを集めており、学内の期待が高まっているという。
ポイントとなる区間は?全員が一致
では、ポイントとなる区間はどこか。全員が挙げたのが、山登りの5区と、山下りの6区だ。
順大OBの今井正人(トヨタ自動車九州)、東洋大OBで今年引退を表明した柏原竜二(富士通)、青学大OBで今月の福岡国際で初マラソンに挑んだ神野大地(コニカミノルタ)といった、かつての圧倒的な「山の神」が、今大会はまだ見当たらない。各校の学生新聞は新たな「山の神」が出現した大学にチャンスがある、と見ている。
「早稲田スポーツ」の鎌田さんは、現役時代に2000年第76回大会で5区、2002年第78回大会で6区を走った経験がある相楽豊監督に加え、10年前に5区を走って、往路優勝に導いた駒野亮太コーチが率いる強みを強調する。
「5区は(早稲田に)アドバンテージがある。4区までで3分離されていても(往路優勝は)いけるのではないか」と、3年連続で起用されると見られる安井に信頼を寄せる。安井が箱根の約2カ月後に東京マラソン(3月3日)を走ることにも触れ、「それを見越して夏から練習している。監督の信頼も抜群のようです」と揺るがない。
青学大は原監督が、「58分20秒で走ってもらう」と自信を持って送り出す予定の小野田勇次(3年)が6区に控える。2015年以降距離が伸びた区間記録は58分1秒。小野田は前回区間2位の実力者だ。「アオスポ」の小島さんは「6区は心配ないけど、唯一、心配なのが5区。他大学で神野選手のような人が出ると厳しい」と不安を漏らした。
「駒大スポーツ」の石曽根さんも「5、6区でミスがなければ、良い位置につけられる」。その一方で、「5、6区を経験したことのある選手が駒大はいない。他大学でも山下りができる選手が少ないなかで、青学大の小野田選手は怖い」。「東海スポーツ」の野極さんも「大きな差が出るのは5、6区の山。どう走るかが優勝を左右する」。
各大学のさまざまな思いが交錯する箱根駅伝。各校の学生新聞担当記者の分析や予想も頭に入れながら、新年のスタートを楽しみに待ちたい。(大坂尚子)
主な大学新聞の部員数や発行回数
《青学大「青山スポーツ」》
・創刊1997年
・部員 1、2年生=9人
・年間発行 3回
・箱根駅伝紙面 12月号=6千部
《早大「早稲田スポーツ」》
・創刊1959年
・部員 1~3年生=120人
・年間発行 12回
・箱根駅伝紙面 箱根号=約1万部
《駒大「駒沢大学スポーツ」》
・創刊1996年
・部員 1、2年生=27人
・年間発行 4回
・箱根駅伝紙面 1月号=2万4千部
《東海大「東海スポーツ」》
・復刊2002年
・部員 1~4年生=約20人
・年間発行 3回
・箱根駅伝紙面 12月号=約2万2千部
《神奈川大「神大スポーツ」》
・創刊2008年
・大学が発行
・年間発行 3回
・箱根駅伝紙面 12月号=12万6千部