衆院予算委理事会に臨む与野党の理事ら=19日午前8時33分、国会内、岩下毅撮影
裁量労働制で働く人の労働時間について「一般労働者より短いデータもある」とした国会答弁を安倍晋三首相が撤回した問題で、厚生労働省は19日朝、衆院予算委員会の理事会に対し、首相の答弁の根拠となったデータが、裁量労働制で働く人より一般労働者の労働時間の方が長い集計結果が出やすい調査を元にしていたことを明らかにした。
「最長残業」根拠に首相答弁 残業データ、違う質問比較
残業データ、恣意的利用の疑念 問われる答弁の作成意図
厚労省幹部は理事会で、一般労働者に「最長」の残業時間を聞く一方、裁量労働制で働く人には単に労働時間を尋ねていたと説明した。質問そのものが異なる調査の結果を比較しており、データを不適切に利用したことを認めた。
答弁の根拠になったのは厚労省が2013年に公表した「労働時間等総合実態調査」。政府はこの調査を元に、「平均的な人」の1日あたりの労働時間は、一般労働者より裁量労働制で働く人の方が平均20分前後短いと説明した。
厚労省は、調査で使った質問票から、比較した二つの質問項目を抜粋して提示。両項目について、対象の1万1575事業所で聞き取った具体的な時間数の書かれた一覧表も示した。野党は、調査にあたって厚労省が各労働局に出した指示の内容についても資料を求めていたが、19日朝の理事会では開示されなかった。厚労省労働基準局の土屋喜久審議官は理事会後に省内で記者会見し、異なる前提の二つのデータを比較したことについて「不適切だった」と陳謝した。
会見では、問題のデータは15年3月の旧民主党の部会で同党の求めに応じて初めて提示したと説明。その際、不適切なデータの比較だと気がつかずに資料をまとめたと説明した。このデータが、同年7月の塩崎恭久厚労相(当時)の国会答弁や今回の首相の答弁に使われた。今年2月1日に野党がデータに疑義を示し、その後、不適切であることが発覚したという。
菅義偉官房長官は19日午前の記者会見で「平均的な者の労働時間について、一般労働者と裁量労働者で異なる仕方で選んだ数値を比較していたことは極めて不適切だった」との見解を示した。一方で「この労働時間を比較したデータは、(裁量労働制に関する)労働政策審議会の審議には提供していない」とも強調した。
首相は1月29日の衆院予算委員会で「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁。データに疑義があると野党から追及を受け、答弁を撤回した。(贄川俊、米谷陽一)