智弁和歌山―富山商 一回裏富山商無死、三振直後に笑顔をみせる横尾君。捕手東妻=25日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場、遠藤真梨撮影
(25日、選抜高校野球 智弁和歌山4―2富山商)
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1点を追う五回裏2死三塁、富山商の1番横尾和樹君(3年)が同点適時打を放った。「あのとき野球をやめていたら甲子園にも来られなかったし、ヒットも打てなかった」。横尾君は試合後、「感謝をしてもしきれない」とある男性への思いを口にした。
「野球をやめよう」。横尾君は中学校の野球部を引退後、一度はそう決めた。勝敗にはあまりこだわらない部で情熱を失いかけていた。そんな思いを伝えたのが自宅から用水路を挟んで向かいに住む会社員、近藤哲洋(てつひろ)さん(41)だった。
近藤さんは法政大や伏木海陸運送(富山)での野球経験があり、スポーツ少年団で横尾君を指導したことがあった。野球をやめてほしくなかった。「見ていて気持ちのいいほどのすがすがしさと明るさ。一生懸命でガッツがある」と評価していたからだ。「一度でいいから」と、指導している硬式野球クラブを見に来るように誘った。
横尾君は、後に県内の強豪校に進む選手らと共に真っ赤な顔で倒れ込むまで汗を流した。「野球って楽しいな」という気持ちを思い出した。クラブに通ううち、レベルの高い富山商に行くことを決めた。
進学時、近藤さんは「アグレッシブに自分を出すこと」をアドバイスした。横尾君はその教えを守り、ムードメーカーの1番打者に成長した。今でも横尾君は気持ちが落ち込んだとき、うれしい報告があるとき、部活帰りに近藤さん宅を訪れて素振りを見てもらったり、野球の話をしたりする。
近藤さんはこの日、自宅のテレビで横尾君の活躍を見守った。「腰を引かずに同点打を打ったときは涙が出た。楽しそうに大舞台で意味のある一本を打ってくれた」と喜んだ。(吉田真梨、辻健治)