１９９１年の甲子園を沸かせたスター右腕が、中原英孝（７２）率いる松商学園（長野）の上田佳範（４４）だ。春の選抜大会で準優勝し、夏の選手権ではベスト８。活躍の裏には、敗戦をバネにする上田の気持ちの強さがあったと中原は評する。

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１８７センチの長身を生かし、１年生の秋から本格的に投手に挑戦した。２年生の秋の北信越大会を勝ち抜き、全国の代表８校が競う明治神宮大会に出場した。中原が「一級品」と称賛する得意のカーブに対し、直球は１３７キロ前後。「直球がより速くなれば、カーブがもっと打ちにくい球になる」と中原は考えていた。

準決勝の相手は国士舘（東京）。中原は「カーブは打者１人に１球だけ」と制約を与えた。出場が確実視されていた翌春の選抜大会を見据え、「上田が一回り大きくなるため」の試練を課したのだった。

試合は完敗。２本塁打を浴びた相手の４番打者には、５打席連続でフルカウントまでもつれたという。１球しかないカーブをどこで使うか、苦心のほどがうかがえる。「酷なことをした。でも、あれで上田の闘争心に火がついた」と中原は振り返る。

選抜大会は１回戦で愛工大名電（愛知）の鈴木一朗（イチロー、現マリナーズ）との投手戦を制し、準決勝で国士舘に１―０で雪辱。３５イニング連続無失点の快投で準優勝に導いた。

夏の甲子園３回戦では、四日市工（三重）相手に延長十六回、２０７球を投げ抜き勝利。野球ファンに鮮烈な印象を与えた上田は高卒後、プロ野球日本ハムにドラフト１位で入団。９３年から野手に転向し、活躍は１７年間に及んだ。

中原は長野日大の監督を経て、２０１５年に開校した広域通信制のウェルネス筑北（筑北村）で古希を超えても球児を指導する。県内で歴代トップの甲子園通算１４勝監督が、選手を育てる上で大事にしているのは「向上心を持っているかどうか」。だからこそ、あいさつや時間管理を含め、選手が日々の練習に取り組む姿勢を重視する。「上田は、たたかれた後に自分で気づいた。うまくいかなかったことに対して、次に向かう力が強かった」

中原の指導を、現在ＤｅＮＡでコーチを務める上田はどう受け止めていたか。

シーズンオフは「伸びる選手は冬場に伸びる」と中原がよく口にした言葉を信じ、汗を流したという。

甲子園で活躍できたのは何が大きかったのか、と尋ねると、中原からもらった「最初で最後」という手紙の存在を明かしてくれた。

２年生の夏、長野大会３回戦で東海大三（現東海大諏訪）に３―１３でコールド負け。中原から渡された手紙は、普段練習メニューを記入する便箋（びんせん）数枚にわたっていた。当時の上田の状況を監督の目で書き込んであったという。４番打者とエースを担う上田は「お山の大将と映っていたんでしょうね」。周囲への感謝、練習姿勢について「自分の意識が変わりました」。

後進を指導する立場となった現在、上田が大事にしている言葉がある。中原からもらった「耐えろ、辛抱、我慢」。けがなどで苦しむ選手に、同じ言葉を掛けて元気づけるという。＝敬称略（大野択生）

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なかはら・ひでたか １９４５年、池田町生まれ。松商学園３年で夏の甲子園に二塁手で出場。母校と長野日大の監督で甲子園に春夏１１回出場、通算１４勝。ウェルネス筑北では昨秋の県大会で初優勝。明治大卒。

うえだ・よしのり １９７３年、松本市生まれ。松商学園のエースとして９１年の選抜大会で準優勝、選手権大会では８強。プロ野球日本ハム、中日で活躍し、２００８年引退。現ＤｅＮＡ外野守備走塁コーチ。