カオマダラクサカゲロウの成虫(琉球大学の林正幸研究員提供)
「オス殺し」と呼ばれる細菌に感染してオスが少なくなったクサカゲロウが、短期間でうまく共存できるように進化していたことが、琉球大と農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などの研究グループの調査でわかった。オスに細菌への抵抗力が生まれ、殺されずに増えていた。こうした現象が確認されたのは珍しいという。
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クサカゲロウは体長1・5センチほどの緑色の体に透明な羽を持つ昆虫で、全国にいる。カゲロウとは別種。
琉球大学の林正幸研究員らが2011年、千葉県松戸市でカオマダラクサカゲロウを捕獲して調べたところ、オスが11%しかいなかった。体内にスピロプラズマという細菌がいて、卵子に潜り込んで、受精卵がオスになると殺してしまうのが原因だった。
5年後、同じ場所で再び調べたところ、オスは38%に回復していた。約3千匹を飼育して遺伝学的に調べたところ、細菌はオス殺しの能力を保っていたが、オスは死なずに成虫になっていた。林研究員は「オスが細菌に対する抵抗力を獲得したと思われる。わずか5年で進化の過程が見られるのは珍しい」と話す。どのように抵抗力を獲得したかを今後調べるという。
同様の事例は南太平洋サモア諸島のリュウキュウムラサキというチョウでも見つかっている。別のオス殺し細菌に感染していたが、4年間でオスが抵抗力を獲得していた。今回はそれに続く世界で2例目という。
農研機構の陰山大輔・上級研究員によると、今は昆虫と共生している細菌も、過去にはこうした生存競争を繰り広げていたのかも知れないという。今回のケースもこれで終わるかはわからず、陰山さんは「細菌が進化して逆襲するかもしれないし、もっと強いオス殺し細菌が入ってくるかも知れない。オスの受難は続くでしょう」と話す。(三嶋伸一)