東京大学(東京都文京区)の本郷キャンパス安田講堂前の地下食堂に飾られていた著名画家の大作が、3月末の施設改修で行方不明になり、ネット上などで騒動になっている。食堂を管理する大学生協は一時、絵の所在について「処分した」とホームページに掲載したが、その後「誤った認識により回答してしまった」として記載を削除するなど混乱が続いている。
東大、絵の価値知らず? 食堂飾った著名画家の大作廃棄
飾られていたのは、2012年に亡くなった宇佐美圭司さんによる4メートル角の作品。宇佐美さんの作品には数百万円の値を付けるものもあり、専門家は「絵の価値を知らなかったのではないか」と指摘している。
宇佐美さんは武蔵野美術大教授、京都市立芸術大教授などを歴任し、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。さまざまなポーズの人型を円環状に繰り返し描く知的な画風で知られ、1972年の「ベネチア・ビエンナーレ」では日本代表を務め内外で活躍した。行方が分からなくなった絵は、77年に大学側から依頼され制作したものだった。
大学生協はホームページで3月、絵の行方について「新中央食堂へ飾ることができず、また別の施設に移設するということもできないことから、今回、処分させていただくことといたしました」と回答。「吸音の壁」になることや「意匠の面」で絵が飾れないことを処分の理由に挙げていた。
大学側は4月27日、朝日新聞の取材に対し、大学生協の回答として「絵は廃棄した」と説明したものの、詳しい経緯については「答えられない」とした。しかし、その後生協は「処分した」とするホームページの記載を削除し、「後日改めて回答」するとしている。
宇佐美さんの娘は「事前になぜ連絡が無かったのか、残念に思う」と話した。美術ジャーナリストの村田真さんは「単なる装飾の一つと考えて扱ったのでは。ただ、普段から絵に敬意を払っていれば、こんな形にはならなかったはず。廃棄なら大きな損失」と話した。(木村尚貴、森本未紀)