「姓」をめぐる葛藤を振り返る立教大教授の首藤若菜さん(左)と一橋大教授の中北浩爾さん=東京都豊島区の立教大
結婚はしたいが、姓は変えたくない。事実婚という方法があるけど、大変そう? 政治学者の中北浩爾さん(49)と労働経済学者の首藤若菜さん(44)は、明るく軽やかに夫婦の姓が異なる家族を築いてきました。でも、この春に法律上の結婚をしたのです。何があったのでしょう。夫婦別姓や家族のありようについて語ってもらいました。
――なぜ事実婚を選んだのですか。
首藤 結婚前は遠距離で付き合っていて、深夜の電話で夫の方から言い出したんです。「自分は姓を変えたくない。あなたに変えてもらうことにも抵抗がある。別姓、事実婚でいきたい」と。私は漠然と姓を変えたくないと思っていましたが、事実婚は簡単ではないと見聞きしていたので、無理に説得してまでとは思っていませんでした。だから夫から言い出してくれてうれしかったです。
中北 妻になる人に寄りかかられるのは負担が重いと、ずっと思っていました。父が高校生の時に亡くなったこともあり、自分だけで家族を養うよりも、夫婦で支え合った方がいいという感覚がありました。結婚したのは2002年ですが、その6年前に政府の法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を提言する答申を出していました。やがて制度化されるのだから、それまでの事実婚というつもりでした。
――周囲の反応は。
首藤 福島瑞穂さんのように事実婚・別姓を公言している方はいましたが、当時の社会全体には、まだ別姓の機運はありませんでした。職場の山形大に事実婚を報告したら、驚かれました。「夫になる方は他に家庭があるんじゃないか」と言われて。多くの人に、「女性が望んで事実婚を選ぶのは信じがたい」という受け止め方をされたのを記憶しています。でも、こういう形態も結婚なんだと知ってもらいたくて、事務の方に説明し、結婚祝い金ももらいました。
中北 生命保険の受取人を母から妻に変えようとしたら、保険会社から最初は突き返されました。でも、説明したら、最終的には変えてくれました。子どもが生まれてからは、お互いに相続ができるよう公正証書遺言も作りました。
首藤 一番つらかったのは、夫…