キエフで30日、記者会見で姿を見せたロシア人記者のアルカジー・バプチェンコ氏=AFP時事
ウクライナの治安機関が記者射殺を偽装したおとり捜査で、隣国のロシアが関与する本物の殺害計画を阻止したと発表したことについて、ウクライナのポロシェンコ大統領は30日、「我々は国と市民を守ることを学んだ」と絶賛した。ただ、記者自身は偽装を謝罪。捜査手法には疑問の声も出ている。
「殺された」ロシア人記者登場で騒然 ウクライナが偽装
ウクライナ当局は当初、ロシアのプーチン政権を批判しウクライナに移住したロシア人記者アルカジー・バプチェンコ氏(41)が29日夕、キエフの自宅で何者かに射殺されたと発表した。内外のメディアが「射殺事件」を伝えたが、30日夕になって、ウクライナ保安局(SBU)が事件が偽装だったことを明かした。
SBUはこのおとり捜査で、ロシア治安機関の依頼でバプチェンコ氏の殺害を狙った容疑者をおびき出し、拘束したと発表した。ウクライナでは2016年7月にも、報道の自由を求めてロシアから移住してきた記者が車爆弾で殺害される事件が起きている。
ロシア外務省は自国の関与を強調するウクライナの発表に、声明で「ウクライナ当局は自国で本当に起きる犯罪は捜査せず、代わりに偽装殺人をやってみせるくらいしか能力を示す道がないのだ」と皮肉った。
SBUの記者会見に同席したバプチェンコ氏は偽装を謝罪する一方、「これしかほかに身を守る方法がなかった」と述べた。
29日の「射殺事件」発表の直後、欧州連合(EU)などは事件を非難する声明を出しており、ウクライナ当局に欺かれた格好だ。ロイター通信によると、非営利組織ジャーナリスト保護委員会(CPJ、本部・米ニューヨーク)は「ウクライナ当局はニュース偽造という極端な手段を取った理由を説明すべきだ」とした。
欧州議会の最大会派である中道右派「欧州人民党」は声明で「なぜ事件の偽装が必要だったのか、ウクライナ政府の説明を待つ」とする一方、「ロシアでは多くのジャーナリストが迫害、訴追を受けていることにも注意を向ける必要がある」とした。(モスクワ=喜田尚)