ブブゼラの販売不振を嘆くベビル・バッフマンさん=2月16日、ケープタウン、石原孝撮影
6月14日に開幕したサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会。スタジアムでは開催地や各国のサポーターによる応援スタイルの違いも見ものだ。8年前の南アフリカ大会では、細長いラッパのような「民族楽器」ブブゼラから発せられる重低音が、スタジアムに響き渡るだけでなく、テレビ中継を通じて世界中のお茶の間にまで広がった。時に「騒音」とまで呼ばれ、世界的な知名度を得たブブゼラ。だが今、南アフリカでは、あの楽器の人気はすっかりすたれているという。ブブゼラにいったい何が起きたのか?
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4月、国内随一の人気を誇るカイザー・チーフスの試合が、首都ヨハネスブルクのFNBスタジアムであった。だが、ブブゼラを持っている観客は1割にも満たない。チームのユニホームに身を包んだサポーターたちは、歌や踊りで選手たちを鼓舞していた。
ブブゼラを吹き鳴らして応援していた男性サポーターに話しかけると、「ブブゼラはチームに力を与えてくれる」と叫んだが、吹き鳴らす時は他の観客の迷惑にならないよう、誰もいない方向に向けていた。
ブブゼラは、強く息を吹き込んだ時の音の大きさが100デシベル以上。鉄道のガード下の騒音と同じくらいだと言われる。
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欧州で活躍する選手からは「試合に集中できない」と抗議の声があがり、欧州サッカー連盟(UEFA)はW杯後、主催大会でのブブゼラのスタジアム持ち込みを禁じたほどだ。
その起源には諸説あるが、もともとは動物の角笛だったという。南アフリカではその後、スズなどの金属製ができた。2000年代に入ると格安のプラスチック製の人気が高まり、市場が拡大したという。
「ブブゼラの今」を聞こうと、ヨハネスブルクにあるブブゼラ業者を探してみた。だが、なかなか見つからない。ブブゼラを製造していると聞いたプラスチック製品工場も訪れたが、「注文が大量に入らないと作っていない」と言われる始末だ。
何とか見つけたのが、南アの南西部にある観光地ケープタウンの業者だった。代表を務めるベビル・バッフマンさん(58)は、1994年ごろからブブゼラの製造・販売を始め、これまでに200万~300万個を製造してきた。
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自国開催となる2010年のW杯を大きなビジネスチャンスだとみていたバッフマンさん。その目算が狂ったのは、中国企業の存在だった。W杯開催の数年前から、南アフリカ製より3、4割ほど安い値段でブブゼラを製造し、輸入してきたという。
ロイター通信によると、2010年のW杯当時、南アを中心としたブブゼラ市場は5千万ランド(約4億5千万円)規模に広がっていた。一方、南アで使われるブブゼラの約90%が中国製に取って代わられていたという。
W杯後にブブゼラ人気は一気に下火になり、需要も低迷した。中国企業も地元業者も製造を控えるようになったという。
バッフマンさんは「小さいところから商売を始め、W杯というエベレストでその果実を収穫するはずだった。だが、期待通りにはならなかった。中国との価格競争には勝てない」と下を向いた。
取材後、私たちのもとに送られてきた動画には、W杯期間中に製造したというブブゼラの在庫が映されていた。その数、6万個。今も注文があれば、ここから細々と発送しているという。(石原孝)