サインをしたボールを掲げる草刈正雄さん=2018年5月30日、横浜市、山本裕之撮影
俳優の草刈正雄さん(65)はデビュー前、働きながら高校の定時制に通い、軟式野球部でプレーしていた。野球を通して大勢の人と出会い、学べた楽しさを、思い出とともに語ってもらった。
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高校は福岡県立小倉西高校の定時制に行きました。昼は働いて、夜から4時間の授業が始まり、学校が終わってからも夜はスナックの皿洗いをしていました。
家族はおふくろひとり。親ひとり子ひとりで、普段の生活を変えたかった。寂しくて、大勢の中に入って何かをやることに憧れていました。中学の時に軟式野球を途中でやめたんですけど、もう一度、高校からやり、普段のちまちましたことを発散していました。
全日制に比べて圧倒的に部員がいませんでした。授業が終わるのが夜9時ごろ。それから練習です。2時間ほどして終わったら、みんな働きに行ってました。定時制にはいろんな人がいるんですよ。おじさんもいてね。お父さんたちの話を聞くのが楽しかったです。
全国高校定時制通信制軟式野球大会は会場が神宮球場。とにかく東京へ行きたいと、練習を一生懸命やりました。右翼や一塁を守らせてもらって、ひと通り走ったり、キャッチボールをしたり。球を投げるのは速かったかな。1年生のとき県代表になり、補欠としてベンチ入りして1968年の第15回大会に出場しました。
初めて行った東京、もうそれはすごい。とにかくあか抜けているじゃないですか、東京の人って。それが印象に残っています。練習が休みの時は銀座に友達と出かけ、甘味処(かんみどころ)でみつ豆を食べました。最近、久しぶりにお店に行ったら、同じものが並んでいて、懐かしくてうれしかったですね。
大会では準々決勝まで行って、東京に長くいられました。試合は最後、監督に代打として出させていただいて。緊張しましたね。ただ、相手になめられていましたよ。補欠で代打で出ているわけだから。それで見事、三振しました。
マイナーな軟式野球大会ですから、神宮球場といっても客は誰もいなかった。応援も福岡から来た教頭1人だけが「おーい頑張れよ」なんて言っているだけ。後日、「おいおい記事が載っとるぞ!」って言われてね。目をこらして見ないとわからないような記事でした。甲子園の記事は同じ紙面に大きく載っていて、みんなで笑いました。
その翌年、働いていたスナックのマスターに「お前はモデルになった方が稼げるんじゃないか。紹介してやるよ」と勧められ、上京しました。
高校で野球をもう一度やってよかったです。礼儀は野球で教え込まれたと思います。お芝居をするうえでも、野球で学んだことは生きていますね。集団で過ごす機会があると、いろんなときに役立ちます。100回大会を目指している皆さんには楽しんで過ごしてほしいです。思い切り、青春を爆発させてください。(聞き手・江向彩也夏)
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くさかり・まさお 1952年生まれ、福岡県小倉市(現北九州市)出身。2009年からNHK「美の壺」ナビゲーター、16年に大河ドラマ「真田丸」で真田昌幸役を演じて話題に。出演44作目となる主演映画「体操しようよ」(菊地健雄監督)が11月9日に全国公開。19年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」の出演が決定。