台風12号は29日、西日本豪雨で大きな被害が出た岡山、広島両県を東から西へ横断し、四国にも強い雨を降らせた。「雨が怖くなった」。3週間前の鮮明な記憶と復旧作業の疲れが残るなか、避難所に駆け込む被災者が多くいた。
台風12号で21人けが 九州西側を停滞か、大雨の恐れ
新潟で39.5度、東京も暑さ再び フェーン現象起きる
【特集】台風12号
広島県では県内23市町のうち17市町で避難指示(緊急)や避難勧告が発令された。豪雨で5人が亡くなった梅河(うめごう)団地の住民らが避難する広島市安芸区の矢野南小学校には、29日午後1時時点で2日前の約3倍となる306人が訪れた。
父母と長男の4人で避難した同区の介護職員、倉本彩希(あき)さん(23)は雨が降り続く外を見ながら「家が心配」。豪雨では自宅前が濁流で「海」のようになり、玄関や庭が浸水した。「家の前がきれいになり、仕事に復帰したところなのに」と不安そうだった。
同県三次(みよし)市中心部にある三次中学校の体育館に避難した田辺由理子さん(70)は「自宅は平屋で逃げ場がないし、一人暮らしだと夜が不安。豪雨以降、雨が怖くなってしまった」。テレビで避難所開設を知り、友人と避難してきたという。
岡山県では28日夜から29日朝、笠岡市や総社市など8市町が計約18万5千人に避難勧告を出し、約1100人が一時避難した。
豪雨で大規模浸水した倉敷市真備(まび)町では、避難所になった老人福祉センター「まきび荘」に約60人が避難。山本博さん(69)は激しい雨で裏山が崩れないか不安になり、朝になって避難した。「台風は思ったよりおとなしくてよかった」と安堵(あんど)の表情を見せ、「もうしばらく、こういう心配事はなしにしてほしい」と話した。
愛媛県では、松山市や今治市など4市町が計10万人に避難勧告。豪雨の避難者356人に加え、新たに722人が避難した。豪雨で氾濫(はんらん)した肱(ひじ)川の野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)は、豪雨時のような緊急放流は行われなかった。
「明るいうちに避難」
土砂崩れで2人が犠牲になった山口県岩国市は29日午後、土砂災害の危険が高まったとして、約30世帯に避難指示を、それ以外の市全域の約13万6千人に避難勧告を出した。市の担当者は「地面が水を含んでおり、警戒を続けたい」と語った。死者1人が出た周南市も一部に勧告を出した。
2人が亡くなった北九州市は、豪雨で崩落が起きた場所を中心に避難勧告を発令。午後6時時点で293世帯417人が避難した。一人暮らしという門司区矢筈町の女性(87)は、近くの市民センターに移った。「家は高台で地滑りが怖い。早く台風が通り過ぎてほしい」と話した。
豪雨で大規模に浸水した福岡県久留米市は5カ所に自主避難所を設けた。被害が大きかった北野地区の避難所に来た70代女性は「台風が過ぎても雨が続くと聞き、明るいうちに来た」。
九州のJR各線も29日午後から大きな影響を受けた。JR九州によると、日豊線の特急「ソニック」が上りは午後4時以降、下りは午後6時以降、長崎線の特急「かもめ」は午後9時以降のほぼ全列車が運休した。30日は、日豊線の特急「きりしま」の一部列車が西都城―国分間で区間運休するが、そのほかは通常運転の予定という。