カイシャで生きる 第2話
織田信長の家臣で忘れられないのが佐久間信盛だ。
信長が幼少の頃から仕え、戦功もあげた織田家の重臣だった。しかし、1580年、石山本願寺攻めの怠慢などを理由に信長から譴責(けんせき)状を突きつけられ、高野山に追放されてしまう。
社長から営業本部長に降格 「チャンスじゃないか」
カイシャで生きる
「カイシャ」という組織の歯車として、一日一日を懸命に生きているサラリーマンがいます。どんなにがんばって働いても、人事や処遇は理不尽で不条理。周囲から「出世」とうらやましがられる人事もあれば、「左遷」とみなされる人事もあります。「カイシャで生きる」では、さまざまな境遇を経験し、悩みながらも前に進もうとするサラリーマンたちの物語を紡ぎます。
家臣たちは震え上がったのではないか。たとえ家柄が良くても、過去の功績があっても、現在の仕事ぶりが不十分とみなされれば、組織での居場所を失う。
信長の「天下布武」の原動力は、徹底した実力主義だった。期待に応えたのが明智光秀や豊臣秀吉だ。譴責状では信盛を批判する一方で、「中途採用組」である光秀や秀吉の働きぶりを絶賛している。
アップ・オア・アウト――。「(成果を出して)昇進できない人は、社外に退場せよ」という外資系の企業風土を表した言葉だ。それは、信長の人事とも重なり合う。左遷されても組織には残れる日本企業と比べ、はるかに厳しい世界だ。
作家の波多野聖(はたのしょう)さん(59)は、資産運用業界で有名なファンドマネジャーだった。外資系金融機関で、担当した200億円の日本株ファンドを2200億円まで拡大させるなどの実績を積み重ねた。40歳で役員に当たるマネージングディレクターに昇格した。
告げ口 すり寄り 外資系の社内政治とは
「外資系の出世競争は、織田家並みですか?」と聞くと、「もっとしんどいですね」という答えが返ってきた。
外資系は世間で思われている以上に、コネや組織内の人間関係が人事に影響する。査定する上司の誕生日にプレゼントを贈るのは当たり前。人間関係に気を配り、社内政治に敗れないようにすることが生き残りの条件だった。
「あなたの地位を狙っています」。同僚が波多野さんの上司に虚偽の話を告げ口する。出世競争に勝つためには平気でうそをつく。背後から矢が飛んでくる感覚だった。
役員に出世すると、同僚は態度…