北海道地震から6日で1カ月。強い揺れに襲われた北海道安平(あびら)町の和菓子店「佐藤菓子舗」では、代々伝わってきた釜の土台が割れてしまった。店主の佐藤けい子さん(71)は創業100年を迎えた老舗の閉店も考えたが、常連客の励ましもあり、もう一度店を開こうと決意した。
1918年創業。酪農用サイロを模したモナカやようかんなど約20種類を作り、店や地元駅の物産館で販売してきた。
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50年前、店の3代目だった夫の政紀さんと結婚。菓子作りの経験はなく、義父の手つきを見て覚えた。義父が5個つくる間に1個しか作れず、悔し涙を流したこともあったが、「働くことしかしてこなかった。お菓子作りは人生だね」。3年ほど前、夫と死別し、近くに住む次女の智栄さん(44)と2人で店を守ってきた。
9月6日未明。週末に控えた地元神社の例大祭に向け、おやきのあん作りを終えて自宅で休んでいると、大きな揺れに襲われた。家具は倒れ、灯油が床に流れる中、必死で1階に下りた。店の様子を確認すると、ようかんの在庫が床に散らばり、側壁はゆがんでいた。あん作りに欠かせない釜は土台のれんがが崩れ、廃業するしかないと悟った。建物は町の応急危険度判定で「危険」とされた。
ただ、周囲から店の再開を求める声が相次いだ。智栄さんが再開に前向きなことを知り、「もう一度働きたい」と思う気持ちが膨らんできた。
毎年、登山に訪れた際、土産を買うために来店する客がいた。地震後も顔を出し、「来年来たら、ようかん、あるよね」と言ってくれた。思わず、「がんばります」と声が出た。中古の釜なら用意できるかもしれないと、取引先から申し出もあった。
再開まで数年かかるかもしれない。でも、プレハブでも、どんな小さい店でもいい。まずは来秋の例大祭でおやきを売れないだろうか。「一からの出直し。またお店を開きたい」。佐藤さんはそんな思いで、朝から夕暮れまで店を片付けている。(山下寛久)