アメリカンフットボールの大学日本一を決める第73回甲子園ボウル(全日本大学選手権決勝)は16日に阪神甲子園球場でキックオフする。2年ぶりの頂点を狙う西日本代表の関学大(関西)と、初制覇に挑む東日本代表の早大(関東)の顔合わせ。両校には、苦い過去を振り払おうと大舞台での雪辱を期す4年生がいる。
昨年の日大との甲子園ボウル開始直後の2プレー目だった。関学大のワイドレシーバー(WR)松井理己(りき)は相手をかわそうとした瞬間、その場に倒れた。右ひざの大けがだった。松葉杖を抱えながら敗戦を見た松井は「何もできなかった思いが強くて、涙も出なかった。来年やり返してやるという気持ちだった」。
全治8カ月。リハビリはつらかったが、チームのためにできることを探し、海外の試合の動画を見て研究した。「外から見ることで得ることも多かった」。他のポジション目線でレシーバーを見ることで、よりチーム全体の動きを把握できることに気付いた。
そして、今年10月の京大戦で復帰。「最初は怖かったが、最後はなんでもいいから絶対勝つんだという思いしかなかった」。10カ月ぶりの試合で思うように体は動かなかったが、闘争心はそのままだった。
自分のプレーにはまだまだ満足していない。「仲間も『そろそろ活躍してもらわんと』と思っているはず。甲子園で見返します」。エースWRとして、意地を見せる。
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早大の副将、片岡遼也は球を持って密集を走り抜けるランニングバック(RB)。1934年創部の早大は学生日本一を争う舞台では過去4戦4敗で、勝利は悲願だ。さらに片岡には別の思いもある。「やっとスタートラインに立てる。対戦する関学にはあの時の借りを返さないといけないですから」
2014年の全国高校選手権決勝。東京・早大学院高の主将として兵庫・関学高と戦った。鋭いラン攻撃で相手を苦しめたが、右足首を痛めて離脱。3点差で涙をのんだ。「アメフトは終わり」。弁護士の父に憧れ、同じ道に進むため勉強すると決めた。
だが、心は晴れなかった。けがをしたまま引退を迎え「仲間に申しわけない思いがあった」。父は「やりたいことをやれ」と後押ししてくれた。再びフィールドへ。177センチ、92キロの体格を生かし、1年生から活躍。今季はけがでリーグ戦数試合を欠場したが、特に終盤はパワフルな走りでチームの期待に応えた。
「甲子園にすべてをかけてきた。歴史をつくる」。閉ざされてきた学生日本一への扉は、背番号30がこじ開ける。(辻隆徳、榊原一生)