(25日、バスケットボール全国高校選手権・アレセイア60―65大阪薫英女学院)
韓国人コーチが率いるアレセイア(神奈川)が躍進した。創部4年目にして2年連続出場を果たした今大会。1回戦で岐阜商を相手に大会初勝利を挙げると、2回戦の松江商(島根)も破って一気に16強入り。3回戦で一昨年4強の大阪薫英女学院に敗れたものの、22回の出場を誇る強豪に60―65と肉薄した。
ここまでチームを引き上げたのが、創部当時から指導している張一(チャンイル)コーチだ。28歳から指導者としての道を歩み、韓国プロバスケットボールリーグ(KBL)の現代(ヒュンダイ)などを率いたほか、韓国の中央大学を学生4連覇に導いた経験を持つ。
アレセイアのコーチになったのは、オフ中に来日したのがきっかけだった。親交があった同校男子部の小田島誠前監督から「新設する女子部に入る予定の生徒にアドバイスしてほしい」と頼まれた。それまで日本の高校生どころか女子選手への指導経験もなかった。だが、言葉が通じないながら必死に意図を読み取ろうとする生徒たちの姿勢や真剣なまなざしに、心を動かされたという。
司令塔の古木梨子(2年)はこの1年重点的にフォーム改善の指導を受け、1回戦でチーム最多の27得点、3回戦でチーム2番目の13得点を記録した。「昨年まではシュートが本当に苦手だったけれど、結果がしっかり見えるので頑張れるし楽しい」。主将の宮優里奈(3年)も「練習は逃げ出したくなるくらい厳しいけれど、オンオフがはっきりしていて、コートを出ればお父さんみたいな存在」と話す。
張コーチにはコート外での苦労もあった。強豪校と練習試合を組めるように人脈作りに奔走。韓国と違って学校からの資金面での支援が十分ではないなか、保護者らの協力を得て環境整備に努めた。日本語も独学で身に付け、今では日本語で生徒たちとコミュニケーションを取っている。
最初の契約が「3年間」だったため、昨季限りでコーチをやめる可能性もあったという。すでに新チームの主将になっていた宮には「韓国に帰ろうか迷っている」と率直に打ち明けた。宮は「大人からそんな重大な相談を受けたことがなかったので驚いたけど、こっちも本心を話していいんだなと思えた」と振り返る。生徒たちからの願いに応えるように、コーチを続けることを決めた。
4年目の挑戦は終わったが、アレセイアにとって16強入りは大きな一歩だ。張コーチは「よくここまで成長してくれた。生徒や保護者の皆さんに感謝したい」と話した。(松本麻美)