連合と経団連の労使のトップが5日会談し、今年の春闘がスタートした。経団連は、安倍政権の賃上げ要請に応じる「官製春闘」から距離を置く構えだ。それでも賃上げの流れを持続できるのか。労働組合にとって正念場となるが、一枚岩にはなりきれていない。
経団連、ベアに慎重姿勢「政府に要請されてするものではない」
「この(賃金上昇の)勢いを消さないようしっかりと議論したい」。経団連の中西宏明会長がこう述べると、連合の神津里季生(りきお)会長は「賃金上昇の流れをどう広げていけるのか。日本経済全体が暖まっていくことにつながる」と応じた。
この日、東京都内であった会談で、両者は賃上げが不可欠との認識では一致した。中小企業を中心に深刻な人手不足も、賃上げには追い風だ。だが、今年も昨年までの賃上げムードが続くかはわからない。「官製春闘」の色彩が薄まっているためだ。
経団連は過去5年間、安倍政権からの賃上げ要請に前向きに応じてきた。連合によると、月額賃金の過去10年の賃上げ率(定期昇給含む)は、2009~13年は1・7%前後だったが、政権が賃上げ要請した14年以降は2%前後に。昨年は、経団連の榊原定征前会長が安倍晋三首相が要請した「3%の賃上げ」の実現を加盟社に呼びかけ、2・07%だった。
今年も2%に達するかが焦点となるが、昨年5月に交代した中西会長がこの「官製春闘」に反発。今年1月に出した春闘の指針では「賃上げは、政府に要請されて行うものではない」と明記し、脱「官製」を鮮明にした。賃上げへの首相の発言が例年より消極的なのは、中西氏の強い姿勢への一定の配慮という見方が強い。
政権の「圧力」が弱まり、経団連は賃金のベースアップ(ベア)への慎重姿勢を隠さなくなっている。ベアは、年齢に応じて賃金が上がる定期昇給のカーブ自体を引き上げるものだ。
経営者からみると業績に連動する賞与と違い、ベアは将来にわたり人件費の固定化を招く。このため、春闘の指針では、過去のベアの「累積効果」をわざわざグラフ入りでアピール。米中貿易摩擦などの先行き不透明感を強調したうえで、「多様な方法による年収ベースの賃金引き上げや総合的な処遇改善」を掲げ、ベアに偏る交渉を牽制(けんせい)した。
自動車と電機の産別で方針分かれる
連合は「(月額)賃金にはこだわる」(神津会長)と、引き続きベアを重視する姿勢を強調する。
ただ、ベア率を前面に掲げる長年続けてきた戦い方の転換を図った。前年と同様に「2%程度のベアと定期昇給を合わせて4%程度」の賃上げは求める一方、個々の労組が将来の月額賃金の目標を設けて交渉にのぞむことも促すことにした。もともと賃金格差のある中小企業と大企業が同じベア率を求めていたら、格差が縮まらないからだ。
連合の変化は、ベアをめぐって…