23日に開幕した第91回選抜高校野球大会(日本高野連、毎日新聞社主催、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)。2年ぶり2回目出場の呉(広島)はこの日、市和歌山との開幕試合に臨んだ。呉は前回も開会式直後に登場し、延長戦を制して甲子園初勝利を挙げた。そのチームの一員だった兄たちに負けじと、弟たちも甲子園で延長戦を戦ったが、力及ばなかった。
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呉の主将の上垣内(かみがきうち)俊早(はやて)君(3年)は一昨年春、初めて甲子園を訪れた。兄勇允(ゆうい)さんは呉の三塁手として至学館(愛知)との開幕試合に出場。「すごい歓声に圧倒された」。地元で「イチクレ」と親しまれるチームはこの年、呉勢として54年ぶりの甲子園だった。九回に勇允さんの適時打で追い上げると、球場が大歓声に包まれた。「こんな舞台で野球をしてみたい」と、憧れはより一層強くなった。
兄とは小さな頃から自宅の庭で打撃練習をした。中学時代に野球部の監督に怒られた時には兄が「気にせんでええ」と励ましてくれた。呉に入学後も守備が得意だった兄の助言を受け続け、遊撃手のレギュラーの座をつかんだ。勇允さんは高校卒業後、地元の企業に就職。一度は野球から離れたが弟の甲子園出場が決まり、会社のチームで野球を再び始めた。
呉市は昨夏の西日本豪雨で被災した。「見ている人に元気を与えられるようなプレーがしたい」と話した上垣内君は八回、投手からの牽制(けんせい)球を受け、二塁走者をアウトにした。アルプス席から声援を送った勇允さんは「2年前のことを思い出すと元気が出てくる。弟のおかげでまた甲子園に来られてうれしい」。
上垣内君と三遊間を組む池田駿君(3年)もまた、2年前の開幕試合での兄の雄姿に釘付けになった。呉のエースだった兄吏輝(りき)さんは、九回に自ら同点打を放って延長に持ち込むと、160球で十二回を投げきってチームに甲子園での初勝利をもたらした。
「小さい頃はよくケンカした。兄とは利き腕もポジションも性格も全然違う」と池田君は言うが、兄を野球のお手本にしてきた。練習道具を入れるリュックは兄のお下がり。「RIKI」と名前が入った当時のお守りもそのままだ。広島文化学園大で投手を続けている吏輝さんはスタンドで試合を見届けた。「あそこ(マウンド)に自分が立っとったんじゃな、と思うと誇らしいし、懐かしい。野球に自信を与えてくれたのがこの選抜。弟もそんなきっかけになれば」と話した。
七回にチーム初安打となる右前適時打を放った池田君は「兄はいい場面で打ったので、自分もチャンスで打った姿を見せられたのはよかった」。十一回の守り。上垣内君は中継プレーで懸命に本塁送球したがサヨナラの生還を許した。「兄を目標にやっていたので、初戦で終わってしまい本当に悔しい。守備をもう一度鍛え直して、また夏に戻ってきたい」(高橋俊成、山田知英)