景気についての判断を、政府が3年ぶりに引き下げた。月例経済報告の3月分で示した。緩やかに回復が続いているとの認識までは政府は変えていないが、景気はすでに後退し始めたと受け取れるデータもある。どう考えればいいのか。専門家に聞いた。
「景気は横ばい」 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏
政府の景気判断は、ウソまでいかないギリギリの範囲で、なるべく景気の現状が強めに見えるよう工夫した印象だ。
ポイントは、生産や輸出についての認識に「一部」をつけたことだ。確かに北米向けの自動車など堅調な品目もあることはある。だがデータを見る限り、輸出や生産全体が弱っていると言ってもいい状況だ。
月例経済報告ならではのルールにとらわれず、経済のデータから客観的に今の状況を判断するなら、「景気は横ばいだ」が適切ではないか。
今の時点では景気が後退局面に入ったと断じることも難しい。あくまで回復と後退、どちらに触れるかわからない綱渡りの状態が続いている。
現時点で(10月に予定される)消費増税が難しくなるとは思えない。増税の延期を決めた2016年は、経済データの水準が今よりも低かった。増税対策も、いまさら撤回できないだろう。増税で増える財源をあてにしている幼児教育の無償化も見直しは難しい。
とはいえ、夏の参院選にあわせて衆院の解散総選挙を仕掛けてくる可能性がないとは言い切れず、増税延期の可能性がゼロとも言えない。(聞き手・森田岳穂)
「消費増税 延期の必要なし」 伊藤忠経済研究所チーフエコノミストの武田淳氏
実態を反映した表現だ。先行きについては、足元の弱さが今後も続く可能性を指摘した。
景気の回復基調が失われる可能性が出てきたとは言え、失ったとまで判断するには早い。一部の指標が1、2カ月のあいだ悪化したとしても、基調として回復しているという判断は維持できる。
ポイントは輸出と個人消費だ。中国向け輸出の減少を招いた中国経済の減速の背景には米中貿易摩擦があるが、両国の合意に向け、出口は見えてきている。輸出は今年後半から復調していくだろう。
個人消費を下支えする賃金は、回復傾向が続いている。今年の春闘の賃上げ率は(最終的に)落ちるかも知れないが、賃上げが続くことに変わりはない。消費増税前の駆け込み需要も一定程度あることを考えれば、消費の回復基調が終わるという判断は早計だ。
また、増税に伴い、キャッシュレス決済でのポイント還元などを中心に消費の底上げ策も実施される。増税による負担の増加は所得増でカバーできる範囲に収まり、景気の面で言えば、消費増税を再び延期する必要はないだろう。(聞き手・伊藤舞虹)