留学生などとして過ごした名古屋の魅力を探ろうと、カナダ人外交官が独自の「取材」を始めた。商店街や企業幹部にインタビューし、得意の日本語で原稿を書きためている。自らの経験を重ねながら、「名古屋が国際都市として発展できるヒントを見つけたい」という。
在名古屋カナダ領事館トップのシェニエ・ラサールさん(50)。カナダへの関心を高め、日本企業にカナダ進出を促すのが仕事の「領事兼通商代表」だ。
南山大(名古屋市昭和区)の留学生として1994年に来日。名古屋大大学院にも進み、日本で結婚した。子どもが生まれた街でもある名古屋を「第二のふるさと」と呼ぶ。
取材は今春始め、すでに1千字ほどの原稿を2本仕上げた。
最初に話を聞いたのは、大須商店街連盟の堀田聖司会長。ラサールさんにとって大須は、留学生時代からゲームができるパソコンを作るために部品を物色した、思い出の街だ。
「(大須は)コンピューター店が減り、世界各国のレストランが増えた。外国人に非常にオープンな印象があるが、外国人がビジネスターゲットなのか」と質問すると、堀田会長は「いいえ」と即答したという。そのうえで大須商店街は約1200店舗のうち毎年50~80店舗が入れ替わるとし、「日本人、外国人問わず、まともなビジネスプランや責任感のある方であれば歓迎する」と話したという。「長年の寛容な姿勢が大須を繁栄させた。『変化』だけではなく『違い』への寛容性があり、20年前と変わらず、大須はクール(格好良い)な場所だ」。原稿には自身の大須への思いも込めた。
通商も担当する外交官として、名古屋の経済への目線も欠かさない。
スマートフォン向けゲーム開発などで知られるIT企業「エイチーム」(名古屋市中村区)のカナダ出身執行役員、ブレイディ・メハガンさんへの取材では、「名古屋がIT産業の中心になるには何が必要か」と投げかけた。メハガンさんは、東京では売り手市場になっているプログラマーなど人材の確保が大切だと説いたという。
米国と日本に次いで第3位のゲーム産業を抱えるカナダでは1990年代、州政府が従業員給与の税控除などの優遇策を取ったことでフランスの大手ゲーム会社の誘致に成功し、現在は数百のゲームスタジオが集まる産業の基盤になった。この背景を踏まえ、「自治体の役割は大事。名古屋も学べる点がある」との思いをつづった。
インタビューを通じて、名古屋とカナダの経済交流にも一役買いたいと願う。日本とカナダも加盟国の、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP11)が昨年末に発効したことから、「名古屋の企業にとってカナダも選択肢になりやすくなった」とみる。
原稿はどこかで公開したいと思っているが、今のところ予定はない。地元の企業トップらへの取材は今後も続けるという。「名古屋は潜在力が高い街。愛着も深いこの街が発展することは、私にとって大きな喜びです」(前川浩之)