働き方改革関連法が4月1日に施行され、長時間労働の是正に向けた仕組みが動き出す。企業には社員の残業を減らしたり、有給休暇の取得を促したりすることが求められ、ルールを破ると罰則もある。先行する企業のとりくみをみると、従業員の意欲への配慮などもカギになりそうだ。
残業時間については、罰則付きの上限規制が4月からまずは大企業を対象に導入される。中小企業は来年4月からだ。
今は事実上青天井になっているが、原則を「月45時間・年360時間」とした上で、経営側と働き手が時間外労働に関する労使協定(36協定)を結んだ場合でも休日労働を含めて「月100時間未満」、2~6カ月平均で「月80時間以内」などの上限を設ける。これを超えて働かせると、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科される。
企業には、これまで以上に従業員の労働時間をきちんと把握して残業を減らす努力が求められる。ただ、残業代も生活費の一部として暮らしている人には「実入り」が減る心配もある。
ビル運営管理の三菱地所プロパティマネジメント(東京)は、17年度から社全体で減った前年度の残業代を全額、賞与で還元するしくみを導入している。従業員は約1千人で、15年度の残業時間約24万時間を基準に設定。17年度は3割減の約16万時間となり、減った分の約1億8600万円を18年度の賞与に回した。
賞与額は個人評価にも連動するため、例えばAさんが減らした残業代がAさんに戻るわけではない。それでも、同社働き方改革室の月岡早苗室長は「全社で削減に取り組むきっかけをつくれた」という。17年度の1人あたりの月の平均残業時間は約17時間という。
仕事も効率良くしようと、昨年秋からは「断捨離プロジェクト」と名付けた業務の見直しを始めた。定例会議を削ったり営業担当に偏っていた仕事を他の担当に振り分けたり。約70件が候補になり、簡素化を検討中だ。現場で判断しにくい仕事は最終的に社長が決裁し、「お墨付き」を与える予定だ。
月岡室長は「社員の努力だけで仕事量を減らすのは無理がある。会社側も努力しなければ社員は納得しないはずです」と話す。
仕事を休んでも賃金が支払われる年次有給休暇については、年10日以上与えられている従業員に対して企業が最低5日以上消化させることが義務づけられる。達成できないと、働き手1人あたり最大30万円の罰金が科されることになる。
四国を中心に143店を展開する食品スーパーのマルナカ(高松市)は、18年度からパートを含む従業員に「記念日休暇」を導入した。誕生日や結婚記念日などを想定し、年3日間の年休の取得予定日をあらかじめ出してもらい、計画的な消化をめざしている。
18年度は対象者の86%が計画通りに取得した。法施行にあわせて、19年度からはさらに年2日間の「ご褒美休暇」を加えるという。
終業から始業まで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」については、企業に導入の努力義務が課される。不眠不休で働くことを防げるため、過労死対策の「切り札」ともいわれる。
ただ、厚生労働省の調査では18年1月時点の導入企業の割合は1・8%にとどまる。そんな中、ユニ・チャーム(東京)は17年1月から全社員約1500人に8時間以上の確保を義務、10時間以上を推奨とする制度を導入済みだ。
同社では04年から全社員が30分単位で翌週の業務予定をオンラインで提出し、上司が承認する管理法を導入している。急に生じた残業にも承認がいる。当初は予定を作る煩わしさへの抵抗もあったが、次第に週末近くになると2時間ほどかけて翌週の予定を考える習慣ができ、上司との調整も自然になったという。
広報担当者は「もともと時間管理の手法が定着し、異常値にはチェックが入っていたため、インターバル導入も違和感はなかった」とする。
早稲田大法科大学院の島田陽一教授(労働法)は「残業の上限を超えないよう人事部が目を光らせるだけでは意味がない。経営陣が主導し、本当に必要な労働時間、仕事量かを見直すPDCA(計画、実行、評価、改善)を回すしくみまで採り入れないと、多様な働き方を実現する改革にはならない」と話している。
残業などの労働時間規制が強化される一方で、緩和される制度も導入される。「高度プロフェッショナル制度」だ。年収1075万円以上の金融商品開発やディーリングなど5業種について、労働時間に関する保護から外せるようになる。会社側は、適用された働き手の労働時間を把握しなくてよくなり、深夜・休日労働の割増賃金も払う必要がなくなる。
本人の同意などが必要で、「年104日以上、4週間で4日以上の休日確保」といった健康確保措置はあるものの、際限なく働かされる懸念がある。