【科学力】~産学連携と知的財産~
京都大の本庶佑・特別教授が突き止めた分子「PD―1」をもとに開発されたがん免疫治療薬「オプジーボ」。本庶さんはPD―1の特許を共有する小野薬品工業に、対価が少なすぎると不満を募らせている。
小野薬品は特許出願後、米製薬大手ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)社とオプジーボを共同開発した。小野薬品は本庶さんとの間で結んだライセンス契約に基づき、26億円を法務局に供託したものの、本庶さんは受け取っていない。
本庶さん側は、産学連携によって大学の基礎研究を振興するため、相応の対価を求めているが、開きは大きい。小野薬品側は「契約に基づき対価を支払っている」「寄付を検討している旨申し入れた」などとし、溝は埋まっていない。
両者のすれ違いに輪をかけるのが米国での訴訟だ。類似のがん免疫治療薬「キイトルーダ」を販売する米製薬大手メルクに対し、PD―1の特許を侵害しているとして小野薬品が起こした訴訟では、本庶さん側は、小野薬品から「訴訟の結果小野薬品側がメルクから受賞する金額の40%を配分したい」との提案があり、要望に沿って訴訟に協力したにもかかわらず、訴訟後に小野薬品は提案を一方的に撤回した、などとと主張している。
裁判は、小野薬品側の実質勝訴となる和解が成立したものの、新たに米ダナファーバー研究所が、PD―1の共有特許に米研究者2人を加えるよう求める訴訟を起こした。この5月、米連邦地裁が同研究所の主張を認める判決をくだし、今後が注目されている。
創薬の分野で大学の基礎研究は欠かせないが、その成果をもとに薬を開発し、販売するのは企業だ。企業が開発コストを回収しつつ、大学の基礎研究と共存共栄をはかるために、知的財産はどう扱われるべきか。武田薬品で知財部長を務め、現在は「知的財産戦略ネットワーク」社長として生命科学分野の産学連携に関わる秋元浩さんに聞いた。
■新薬開発に500億~1000…