ES細胞(胚〈はい〉性幹細胞)を使い、ラットの体内に別の種であるマウスの腎臓を作ることに、自然科学研究機構や東京大らのグループが成功した。将来的に、移植用のヒトの臓器を動物の体内で作る研究に応用したいという。研究成果は6日、ネイチャーコミュニケーションズに掲載された。
自然科学研究機構生理学研究所の平林真澄准教授らのグループは、腎臓を作るのに不可欠な「Sall1」という遺伝子をなくした状態にしたラットの受精卵をつくり、そこにマウスのES細胞を注入。生まれたラットの体内に別の種であるマウスの細胞に由来する腎臓を作った。
この遺伝子は他の臓器が機能するのにも必要なため、生まれたラットの多くは数時間しか生きられなかったという。
今回のように、本来臓器ができる場所に空きを作り、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞由来の臓器を作る方法を応用し、将来的にヒトの臓器をブタなどの動物の体内で作ろうとする研究が進められている。今回の成果は「腎臓という大型主要臓器の再生に、世界で初めて成功した」としている。
同グループは、膵臓(すいぞう)がないラットの体内でマウスの膵臓を作り、糖尿病にしたマウスに移植することに成功している。
腎臓は血液中の老廃物を濾過(ろか)し、体の外に出す機能を持つ。慢性腎不全で透析治療が必要になった際、根本的な治療は腎移植だが、ドナー不足のため移植を受けられる患者は希望者の1~2%という。平林さんは「将来的にこの方法でヒトの腎臓を作り、移植で実用できる可能性を示せた」と話す。(戸田政考)