元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、政府は控訴して高裁で争う方針を固めた。一方、家族に対する経済的な支援は別途、検討する。政府関係者が8日、明らかにした。国側の責任を広く認めた判決は受け入れられないものの、家族への人権侵害を認め、支援が必要と判断した。
元ハンセン病家族訴訟、控訴しない方針 安倍首相が発表
今回の訴訟は、ハンセン病患者に対する国の隔離政策で差別を受けて家族の離散などを強いられたとして、元患者の家族561人が国に損害賠償と謝罪を請求。熊本地裁は先月28日、国の責任を認め、総額3億7675万円の支払いを命じた。元患者家族の被害に対し、国の賠償を命じる司法判断は初めてだった。
一方、母親が患者だった鳥取県の男性が2010年に起こした裁判では、一審の鳥取地裁が民法上の時効が過ぎているとして賠償請求を棄却。一般論として、差別に対して国は賠償責任を負うと判断したものの、18年の広島高裁松江支部の判決では、国の差別解消の法的責任も否定している。
この訴訟は最高裁で係争中。このため、政府内では今回の判決に対して控訴せず確定させることはできないとの意見が強く、控訴期限の12日を前に控訴する方針。一方で、元患者に対する国の隔離政策などの責任を認め、国に賠償を命じる判決が01年に確定していることなどを考慮し、家族に経済的な手当てをするあり方なども検討することとした。安倍晋三首相は3日の日本記者クラブ主催の党首討論会で「患者や家族のみなさんは人権が侵害され、大変つらい思いをしてきた。我々としては本当に責任を感じなければならない」と語っている。
今回の熊本地裁判決は、家族が訴えた被害は隔離政策が生じさせたと認め、「大多数の国民らによる偏見・差別を受ける社会構造をつくり、差別被害を発生させ、家族関係の形成を阻害した」と指摘。実際に差別体験があったと認められない原告も、結婚や就職で差別されることへの恐怖や心理的負担があり、共通の被害を受けたとした。
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元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、朝日新聞は9日朝、複数の政府関係者への取材をもとに「国が控訴へ」と報じました。しかし、政府は最終的に控訴を断念し、安倍晋三首相が9日午前に表明しました。誤った記事を配信したことをおわびします。