【ベイルート高橋宗男】イスラエル軍の攻撃が続くレバノンで、空爆などが集中する同国南部孤立化への懸念が深まっている。すでに多くの橋や幹線道路が爆撃で破壊され、住民の避難もままならないほか、海上封鎖によって物流もストップ。医療関係者らは「被害者の搬送手段すら確保できない危機的な状況」と指摘する。
「ベイルートはまだ持ちこたえられる。だが、南部は危機的な状況だ」。ベイルートでイスラエル軍の攻撃が集中する南部ダハヒ地区に近いザフラア病院のシュケール・ハッサン医師(26)が強調する。
ハッサン医師は今月15日から5日間、赤十字のスタッフとともに南部の国境沿いの村や町で医療支援を行った。小児科が専門の同医師は「我々に可能なのは応急処置だけ。少なくとも20人の重傷者をベイルートに搬送する必要があると判断したが、搬送手段がない。国連のヘリを要請する必要がある」と指摘した。
ハッサン医師はさらに、赤十字の救急車が威嚇射撃で通行を妨害されたと強調。「人道支援を阻もうとするイスラエル軍の姿勢は許せない」と語気を強め、「孤立した南部では止血剤や抗生物質など最低限必要な医薬品すら事欠く状況だ」と語った。
イスラエル軍はベイルート国際空港を空爆したほか、レバノン南部や東部を中心に少なくとも46カ所の橋や幹線道路を破壊。さらに海上封鎖により、物資の流入を阻止している。
こうした攻撃には、イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラへの兵器供給を寸断する狙いがある。イスラエル軍は19日、東部ベカー平原で兵器を輸送していたトラックの車列を破壊したと発表している。しかし、このトラックについてAFP通信は、アラブ首長国連邦(UAE)から医薬品を運んでいたトラックで、現場には医薬品や野菜などが散乱していたと報道。UAE政府は人道物資輸送の車列が攻撃されたとイスラエルを非難した。
トルコ政府も同平原で18日、食用油を輸送中のトラックがイスラエル軍に攻撃されたと主張している。
毎日新聞 2006年7月20日 21時11分