【カイロ高橋宗男】レバノンからの報道によると、首都ベイルート近郊で21日、反シリア派のピエール・ジュマイエル産業相(34)の車列が武装集団に銃撃され、同産業相は病院に運ばれたが死亡した。事件は、政権を主導する反シリア派と親シリア派が激しく対立する中で起きた。一般市民の間には「暗殺の連鎖」を懸念する声も広がり、今後レバノン情勢が一層不安定化する恐れが出ている。
同産業相は反シリア派のキリスト教政党「ファランヘ党」創始者の孫。キリスト教マロン派の有力政治家一族の出身だ。おじのバシール氏は82年に大統領に選出された直後に暗殺され、父のアミン氏がその後に大統領を務めた。
昨年2月に暗殺された反シリア派ハリリ元首相の息子であるサード・ハリリ議員は同日の記者会見で、「暗殺の背後にはシリアがいる」と糾弾した。元首相の暗殺事件でも反シリア派はシリア情報機関の関与を指摘している。
これに対し、国営シリア通信は21日「シリアはこの殺害行為を強く非難する」と報じた。レバノンの親シリア派も「卑劣な犯罪行為」(イスラム教シーア派組織ヒズボラ)「テロ行為」(ラフード大統領)などとする声明を出し、真相究明を求めている。
レバノンでは、親シリア派の閣僚6人が今月中旬、内閣改造要求の拒絶などを理由に辞表を提出。その後、ハリリ元首相暗殺事件をめぐる国際特別法廷の設置を反シリア派だけで閣議決定したことを強く非難していた。親シリア各派は「現内閣に正統性はない」として大規模デモで反シリア派に圧力をかける構えを見せていたが、今回の暗殺事件を機に反シリア派が攻勢を強めるのは必至の情勢だ。
ハリリ元首相暗殺事件以降、レバノンで起きた暗殺事件5件の犠牲者は今回を含めいずれも反シリア派の政治家やジャーナリストで、反シリア派はシリアを名指しで糾弾しているが、真相は解明されていない。
毎日新聞 2006年11月22日