【ニューヨーク坂東賢治】イスラエル軍によるレバノン南部カナへの空爆で子どもを含む民間人多数が死傷したことを受け、国連安全保障理事会は30日夜(日本時間31日午前)、事件に「強い遺憾の意」を表明し、永続的な停戦実現のための安保理決議採択を急ぐことなどを盛り込んだ議長声明を全会一致で採択した。
イスラエルを支持する米国の抵抗で、アナン事務総長が求めた非難表明や即時戦闘停止は盛り込まれなかった。しかし、国連要員4人が死亡した際の議長声明(27日)と比べると、強い表現が使われており、民間人の犠牲者増大に米国も譲歩を迫られたとみられる。
声明は事件に「強烈な衝撃と悲しみ」を表明し、「罪のない人たちの命が失われた」と表現した。その上でアナン事務総長に対し、1週間以内に事件について報告するように要請した。さらに一層の暴力の応酬の激化に懸念を示し、「暴力の停止」を求めた。また、レバノンとイスラエルにおける民間人犠牲者や被害拡大に「最大の懸念」を表明し、各当事者に対して即時、無制限に人道援助を保証するよう促している。
声明は事件だけにとどまらず、レバノン情勢全般に言及しており、今後、この声明をたたき台として決議の早期採択に向けた安保理内での議論が加速しそうだ。
国連のアナン事務総長は声明採択に先立つ30日の安保理緊急会合で、事件について「我々は最も強い言葉で非難しなければならない」と述べ、安保理に強い対応を求めた。さらにレバノンで民衆がベイルートの国連事務所に投石するなど国連への不満が高まっていることに懸念を示し、「安保理の権威と地位が危機にひんしている」と危機感を示していた。
◇イスラエル軍のレバノン南部カナ空爆を受け、国連安保理が30日に採択した議長声明は次の通り。【ニューヨーク支局】
1、国連安保理はレバノン南部カナで多くの子どもを含め民間人多数を殺害し、多くの負傷者を生んだイスラエル軍による爆撃に強烈な衝撃と悲しみを表明する。安保理は犠牲者の家族とレバノンの人々に深い哀悼の意をささげる。
2、安保理は今回の紛争で罪のない人たちの命が失われたことと民間人の殺害に強い遺憾の意を表明し、国連事務総長に対して、この悲劇的な事件について1週間以内に安保理に報告するよう要請する。
3、安保理は、人道的な状況に重大な結果をもたらしかねない暴力の応酬激化に懸念を表明し、暴力停止を求め、永続的で恒久的かつ持続可能な停戦が急を要することを強調する。
4、安保理は、レバノンとイスラエルの民間人犠牲者、人的被害、民間施設の破壊行為の拡大、国内避難民の増加に最大の懸念を表明する。
5、安保理はすべての当事者に対して即時、無制限に人道援助を認めるよう要請する。
6、安保理は、国連要員に敵対する行為を非難し、すべての国連要員と施設の安全確保が完全に尊重されるよう求める。
7、安保理は、外交努力を続け、危機の永続的な解決のための決議採択に向け遅滞なく努力する決意を確認する。
8、安保理はこの問題を掌握し続ける。
毎日新聞 2006年7月31日