理化学研究所などは昨年9月にiPS細胞を使った患者への移植を実施したが、手術までにかなりの時間がかかったうえ、個人ごとに作るため費用が膨らんでいた。2例目の臨床研究で備蓄した細胞を使うのは、こうした課題を克服する狙いがある。
iPS細胞は患者の皮膚や血液の細胞から作っている。患者本人の細胞を使えば拒絶反応が起きないからだ。しかし、患者の細胞を使って実施した1例目の移植は費用が5000万~1億円ほどかかったといわれる。iPS細胞を利用する再生医療の普及に向けた大きな課題となっていた。
このため、京都大学などは他人の血液や皮膚などの細胞からiPS細胞を作り、凍結保存する「iPSストック」を整備し、他の研究機関に細胞を配る事業を進めている。備蓄細胞を使うことで、高橋政代プロジェクトリーダーは「コストは1000万円を切る可能性がある」と語った。
備蓄した細胞を使うと、治療を始めるまでに要する期間を1例目の1年近くから半年に短縮できるという。病気や事故で緊急に移植が必要になった場合にも対応できる。高橋リーダーは「備蓄している1人分のiPS細胞から、数十人の患者に使える移植用の細胞を作れる」と説明した。
他人の細胞から作ったiPS細胞を使うと、拒絶反応が懸念される。そこで、京大などは拒絶反応が起きにくい特別な体質の人から細胞の提供を受けることで対応する。同様のiPS細胞を使ってサルで実験したところ、良好な結果を得ている。拒絶反応を抑える薬剤は少量か、不要になる可能性があるという。
備蓄用の細胞は徹底した安全性や品質確認を経ており、普及を妨げる問題の多くを解決できるとみている。
20日の記者会見では、1例目の移植手術で執刀した先端医療センター病院の栗本康夫眼科統括部長も同席し、患者の経過を語った。移植から半年たった今もがんはできておらず、細胞シートはきちんと定着している。問題となる副作用は起きていないという。
栗本部長は「視力は向上していないが、低下は食い止められている」と説明した。本格的に評価するにはまだ半年ほど必要だが、一定の効果を得られていると強調した。