東芝の医療機器子会社「東芝メディカルシステムズ」をキヤノンが買収する手続きについて、公正取引委員会は30日、独占禁止法違反につながるおそれがあるとしてキヤノンを注意し、東芝にも口頭で指導したことを明らかにした。買収は認めたが、独禁法が定める事前届け出義務を果たしていないことを問題視している。
経営再建中の東芝は3月、東芝メディカルの株式をキヤノンに約6655億円で売却する契約を結び、キヤノンから全額の支払いを受けて、一時的な受け皿会社であるMSホールディングに株式を売却した、と発表した。キヤノンは東芝に入金し、東芝が2016年3月期決算に東芝メディカルの売却益(3817億円)を計上できる見通しがついた後、公取委に一連の手続きについて届け出た。
独禁法は、買収の当事者企業が一定規模以上の場合などに、事前に公取委に計画を届け出ることを義務づけており、届け出から原則30日間は買収手続きを進められない。公取委はキヤノンの届け出のタイミングを問題視。東芝メディカル株がMSホールディングに譲渡された時点で、実質的に東芝とキヤノンの間で売買が成立していた可能性があり、それ以前に届け出る必要があったと指摘した。
公取委はこうした手法を「脱法的」としながらも、「過去にないケースで明確なルールがなかった」などとして刑事罰につながる告発は見送った。ただ、今後同様のケースがあれば、違法と認定する方針も明らかにした。
公取委によると、一連の手続きはキヤノン側が東芝に提案する形で実行された。公取委の聞き取りに対し、両社とも「東芝の債務超過を回避することが目的だった」と説明したという。担当者は会見で「事前届け出制度の趣旨を逸脱し、独禁法違反につながるおそれがある」との認識を示した。(高木真也)