拉致被害者家族らによる集会で、最後にシュプレヒコールをあげる参加者=4月、東京都文京区、白井伸洋撮影
参院選の投開票が迫る中、北朝鮮による拉致問題を巡る論議が盛り上がっていない。北朝鮮は2年前に拉致被害者らの再調査を行うと表明したが、今年になって中止を宣言。問題が進展せず、被害者の帰国を待つ家族の思いは行き場を見つけられずにいる。
特集:2016参院選
候補者のスタンスは? 朝日・東大谷口研究室共同調査
主要9政党の公約集などには拉致問題の主張が並ぶ。自民党は「被害者全員の即時帰国」、公明党は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」、民進党は「すべての拉致被害者の救出」。
ただ、街頭で訴える候補者は少ない。
「拉致問題は何も言われていないようです」。そう感じているのは、横田めぐみさん(拉致当時13)の母・早紀江さん(80)。公示前、投票所への入場券が自宅に届いた。今回も、封筒にはめぐみさんの券も入っていた。「投票はみんなができることのはずなのに……」と早紀江さん。
テレビや新聞で見聞きする候補者の主張は教育や経済ばかりで、むなしさを感じるという。「もしも候補者が自分の子どもを拉致されたら、拉致問題を訴えるのでは」
田口八重子さん(当時22)の兄で、拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さん(78)も「有権者にとって身近な子育てや教育政策と違い、候補者は拉致を訴えても勝てないと思っているのでは」といぶかる。拉致問題をめぐる論戦をもとに投票先を選び、周囲にも薦めたいが、主張は聞こえてこないという。
拉致された可能性があるとされる特定失踪者の大沢孝司さん(失踪当時27)の兄・昭一さん(80)は「拉致が語られないのは進展がないまま、あまりにも長い時間が過ぎたからだろうか」と話す。孝司さんは1974年、新潟・佐渡島で行方がわからなくなった。
日朝合意をもとに、北朝鮮は2014年7月に特別調査委員会を立ち上げて再調査を始めたと説明した。日本政府が認定した拉致被害者だけでなく、特定失踪者らも調査対象となり、昭一さんも期待した。それから2年。調査結果は報告されていない。今年2月には日本が独自制裁を決めたことに報復する形で、北朝鮮が特別委を解体すると発表したからだ。
「北朝鮮に振り回されていて残念」と昭一さん。「日本国民の生命を守るために、もっと拉致も論議してほしい」と願う。(佐藤恵子)