「お坊さん便」から手配され、四十九日の法要をする僧侶。汗もぬぐわず、一心不乱にお経を読む=大阪府内
アマゾンでクリック、カートに入れて決済すれば、やがてお坊さんが自宅にやってくる。僧侶手配サービス「お坊さん便」は、そのユニークなネーミングもあって大きな反響を呼びました。仏教界が販売の中止を求めても商品化が止まらない背景には、頼む側、頼まれる側双方に事情があるようです。
受話器から、ため息交じりの声が聞こえた。
「試しにクリックしたら、在庫切れって表示されたんです。僧侶がモノ扱い、在庫扱いですよ」
昨年12月、ネット通販大手アマゾンに法事や法要に僧侶を手配するサービス「お坊さん便」が出品され、ネット上やテレビで話題になった。旧知の僧侶に電話で感想を求めると、こんな答えが返ってきた。
「宗教の商品化」に、仏教の主な宗派でつくる全日本仏教会(全仏〈ぜんぶつ〉)は黙っていなかった。昨年暮れ、当時の斎藤明聖(あきさと)理事長名で「宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ない」との談話を発表。今年3月にはお坊さん便の販売中止をアマゾンに申し入れた。
お坊さん便は葬儀関連会社の「みんれび」(東京)が3年前に始めた。定額で僧侶を法事や法要に仲介する。基本価格は税込み3万5千円。さらに多く払えば戒名も授けてくれる。みんれびへの手数料を除いた分が僧侶に「お布施」として入る。アマゾンに払う手数料はみんれびが負担する。
「ここまで反響があるとは思わなかった」。みんれび副社長の秋田将志(30)は言う。みんれびは、岐阜県の高校で同級生だった社長の芦沢雅治(30)と秋田が7年前、仲間と3人で始めたベンチャー企業だ。
当初、葬儀社を仲介・紹介するサイトの運営に力を入れた。ネットがまだ業界に浸透しておらず、成長が見込める市場の割に競合が少なかったからだ。飛び込みで近隣の葬儀社に営業し、紹介できる業者を増やした。やがて葬儀社だけでなく僧侶の仲介ニーズがあると気づく。インパクトのある商品名は100以上の候補から決めた。
一方、全仏にとって想定外だったのは、お坊さん便に対する批判が、「なぜお布施と称して多額の金銭を要求するのか」「対案も出さずに批判するのか」などと、ブーメランのように自らへの批判となって返ってきたことだ。電話やメールで寄せられた意見で、全仏を支持する声はわずかだった。
思わぬ「劣勢」に全仏は今年1月、学識経験者と各宗派の代表ら十数人でつくる「協議会」の設置を決めた。商品化が進むのは仏教界にも問題があるとして、菩提(ぼだい)寺を持たない人に近隣の寺を紹介する取り組みや、過疎地の僧侶への対応策などを話し合う予定だった。
だがメンバーの人選などに手間取り、初会合は9月にずれ込む見通し。アマゾンからも具体的な返答はなく、現時点では成果がないまま批判だけ浴びた格好だ。6月に就任した全仏の新理事長、石上智康(いわがみちこう、79)は「決定打はなかなかない。このような商品が成立しない土壌をつくるために我々も襟を正し、愚直に信頼を回復していくしかない」と話す。
7月半ば、大阪府内に住む70…