８月に相次いだ台風の豪雨で被災した北海道の被害総額が２７８７億円となり、過去最悪となった。大動脈の鉄路は寸断されたままで、復旧は１２月以降の見通しだ。国内シェアの８割を占めるコーンの缶詰工場も操業を再開できない。深い傷痕に厳しい冬が迫る。

札幌と道東を結ぶ特急が走っていたＪＲ根室線は、１カ月前の８月３０日に東北に上陸した台風１０号の影響で、新得町の下新得川橋が流された。橋は１０９年前の明治時代にできた。近所の男性（７０）は「どんな災害があっても壊れないと思っていた」と驚く。

富良野―芽室（めむろ）間の運休が続く根室線の全線再開は最短でも１２月の見通しで、ＪＲ北海道は代行バスを走らせる。根室線で１日最大１６本の貨物列車を走らせていたＪＲ貨物は１５日から船をチャーターし、釧路港から青森・八戸港へコンテナを運んでいる。

ＪＲ北海道では三つの橋桁が流され、１２カ所で護岸が崩れるなどした。根室線を除けば１０月１日までに復旧予定だが、８月の運休本数は例年の８倍の計２８００本。運休による減収は約４０億円。島田修社長は「発足以来最大の自然災害」と悲壮感をあらわにする。

今月２８日の北海道の発表などによると、３人が死亡した台風１０号を含め、８月以降に相次いだ四つの台風による被害総額は、道が管理する道路や河川の被害約１２００億円など、２７８７億円にのぼる。１９８１（昭和５６）年に台風で石狩川が氾濫（はんらん）して１０人が死亡した「５６水害」の２７０５億円を上回った。

農作物の被害額は２９３億円。被害面積は東京ドーム約８３００個分の約３万９千ヘクタール。被害が集中したのは収穫期を迎えた十勝地方だ。スイートコーンの作付面積・生産量ともに日本一の芽室町。コーンの缶詰を年間９０万箱分（１箱２４個入り）生産し、国内シェアの約８割を占める「日本罐詰（かんづめ）」十勝工場は、濁流が流れ込んで機械に泥がへばりつき、操業を停止した。

同工場に「アヲハタ 十勝コーン ホール」などの製造を委託していたキユーピーは１４商品の販売を休止した。８００戸の農家が工場と契約しているが、品種が異なるために生食用にもならず、収穫期を迎えても出荷できなくなった。

芽室町の松久光春さん（５０）はトラクターでコーンを畑にすき込む日々だ。「うちらも会社も台風の被害者。しょうがない」とぼやく。減収分の補償は不透明だという。日本罐詰の高岡隆社長は「誠心誠意できるだけのことはさせていただく」と話す。

十勝の牧場が断水や停電になった影響もあり、生乳の生産が減る恐れもでている。政府は２７日にバターの緊急輸入を決めた。

帯広市近郊の十勝川温泉は、例年なら紅葉見物の観光客でにぎわう季節だが、今年のシルバーウィークは閑散としていた。北海道ホテル旅館生活衛生同業組合によると、８月から来年１月までの道内の予約キャンセルは５万１５９８人。被害額は約９億２３００万円。十勝川温泉観光協会の窪浩政事務局次長は「通常通り営業しているのにキャンセルが相次いでいる。風評被害だ」と話している。（光墨祥吾、池田敏行、上地兼太郎）