秋冬メニュー、自慢の一品「サバのユズみそかけ」が入った弁当=宮崎県美郷町南郷
宮崎県北西部にある約360人の山深い集落で、平均年齢69歳の女性5人のグループが、新たに弁当を売るカフェをつくろうとネットで寄付金を募っている。「クラウドファンディングっちゅうやつです」
「トントントン」
周りを山に囲まれた美郷町南郷渡川(どがわ)地区。午前8時半、手作り弁当の宅配サービスに取り組む女性5人が調理施設で料理を始めた。盛りつけ役と調理役に分かれて、手際よく弁当箱に食材が彩られていく。
「渡川いこいの郷加工グループ」。通称はママとご飯をかけた「渡川マンマ」だ。メンバーの宗石節子さん(69)は「作りながら、みんな夫の悪口を言うて。姉妹以上の関係で、ここに来るのが楽しみ」と笑う。
渡川地区は宮崎市の北約60キロにある美郷町役場からさらに車で1時間。住民の半数近くが65歳以上の、ほぼ「限界集落」だ。
2013年5月。県外から集落に戻ってきた若者たちが街おこしグループを立ち上げた。「わけもんに負けられん」と思っていたとき、地元の運動会で煮しめを作って売ったらどうかと勧められ、5人が立ち上がった。
集落には一人で食事するお年寄りも多い。見守りを兼ねた弁当の宅配サービスはどうか……。買ってくれる人がいるかを調べ、好き嫌いやアレルギーがないかを聞いてまわった。1カ月間を準備にかけ、同10月にサービスを開始した。
配達先は約60世帯。月6回、自宅の畑や裏山でとれる米や野菜、山菜などを盛り込んだ弁当(300円)約30食分とおかず約60食分を用意する。春は山菜の天ぷら、夏はゴーヤの煮物、秋冬はサバのユズみそかけ。七夕には星形にしたニンジンを添える。献立は5人で考える。
肉や魚の仕入れは車で40分ほどかかる日向市のスーパーに行く。ガソリン代や水道、ガスなどは全て5人の自費。利益はほぼない。
そんなとき、地域プロデューサーの斎藤潤一さん(37)=宮崎市=と出会った。斎藤さんは自身の町おこし計画に渡川地区の若者が協力してくれたのを機に、稼ぐための勉強会を定期的に開催していた。地元の若者に交じり、「マンマ」たちも参加した。
斎藤さんからのアドバイスは、弁当を販売するためのカフェの設置。その資金を集める手法として教えられたのが、ネットで寄付金を募るクラウドファンディングだった。渡川マンマの会長、黒木和子さん(75)は「横文字で最初はどんげなもんねって。なにを言ってるかすら分からんかった」と言う。
目標は100万円。地域を盛り上げるプロジェクトに特化したクラウドファンディングのサイト「FAAVO宮崎」(
https://faavo.jp/miyazaki
)を活用する。昨夏に渡川簡易郵便局の横に出来た商店「こんにちや」に併設する予定だ。
寄付金額は500円から5万円までの6コースを用意。マンマの弁当のほか、地元特産の原木シイタケや米などがお返しに送られる仕組みだ。
30日現在、94人から92万8千円が集まった。「渡川に行きたい」「マンマの弁当が食べたい」と応援の声も寄せられている。取り組みは2月9日まで。
斎藤さんは「売って、食べてもらうのは大きな一歩。ここのカフェでお弁当を食べている光景は、地域にとって心の絆になる」。資金が集まれば夏ごろにはカフェを始める予定だ。
「どれくらいお弁当が売れるかわからんけど、カフェに渡川の人や外からの人も集まって、にぎわってくれれば」と黒木さん。いまはカフェで売るクッキー作りもみんなで勉強中だ。
「コンピューターがあれば、こんな集落でも何でもできるんだって。私たちだってまだまだやれんじゃないかなって。もう、わくわくですわ」(金山隆之介)