駐マレーシアのカン・チョル北朝鮮大使は17日深夜(日本時間18日未明)、金正男氏の遺体があるクアラルンプール市内の病院前を訪れ、遺体の迅速な引き渡しを報道陣に訴えた。北朝鮮政府が事件についての立場を説明したのは初めて。
大使は、正男氏が死亡した13日、警察から「心臓発作で死亡した」と伝達があったとして「司法解剖はいらない」と語り、北朝鮮側の許可や立ち会いのないままに解剖したことを非難。解剖結果を拒否し、国際法廷に事件を持ち込むとの内容の声明文も配布した。
韓国政府は、国際社会の非難を意識したマレーシア政府が遺体引き渡しを拒否する事態を北朝鮮が懸念しているとみる。ある韓国政府関係者は18日、大使の発言を「お粗末で無礼な内容だ」と語った。
別の韓国政府関係者は「マレーシア政府への警告ではないか。全容が判明する前に手を打ちたかったのだろう」と話す。北朝鮮は様々なテロ犯罪を起こしたが、韓国大統領府襲撃事件(1968年)や日本人拉致で犯行を認めた程度だ。
また、北朝鮮関係筋によれば、北朝鮮では数日前から「金正日(キムジョンイル)総書記の息子が、平壌の指示で殺された」という趣旨の携帯電話のショートメッセージが出回り始めたという。同筋は「携帯は370万台もあるから、ある程度拡散しているようだ」と指摘し、大使の発言が伝わることで北朝鮮国内の動揺を抑える目的もあったとする。
韓国政府は正男氏殺害を、金正恩委員長の指示とみる。韓国政府関係者の一人は「北の当局者が、最高指導者に対する批判を傍観した場合、その当局者自身の身が危うくなる」と大使の言動を分析した。(クアラルンプール=古谷祐伸、乗京真知、ソウル=牧野愛博)