劣悪な環境の宿泊所に入居させられ、生活保護費の大半を徴収されたとして、宿泊所に入居していた男性2人が、運営者らに徴収額の返還と慰謝料などを求めた訴訟の判決が1日、さいたま地裁であった。脇由紀裁判長は「不当な利益を得ていた」として、運営者に慰謝料など計約588万円を支払うよう命じた。
判決によると、路上生活をしていた76歳と68歳の男性が入居したのは、金型加工業の男性(75)=さいたま市、所得税法違反の罪で有罪判決が確定=が運営していた宿泊所(同市桜区)。老朽化した木造アパートで、6畳の1室に2人ずつ住まわせ、生活保護を受給させて経費などの名目で保護費を徴収していた。
原告の男性側は「貧困ビジネスだ」などと主張し、運営者側は「実生活に必要な物的供与をしていた」と反論していた。
判決は、居住環境を「相当劣悪」とした上で、「運営者側は生活保護費を全額徴収しながら、最低限度の生活水準に満たないサービスしか提供しなかった」と判示した。
また保護費返還とは別に、76歳の原告が入居時の事故で指を切断したことについて、「安全配慮義務違反」として、慰謝料など991万円の支払いを命じた。判決後、68歳の男性は「当たり前の生活ができず、仕事を探す金も無かった。あくどい貧困ビジネスの実態を世間に知ってもらいたい」と話した。運営者の代理人弁護士は「判決文が届いていないのでコメントできない」としている。(小笠原一樹)