英議会で29日、答弁に立つメイ首相=AFP時事
英国のメイ首相は29日、欧州連合(EU)に書簡を送り、正式に「離脱通知」を行った。EUから加盟国が離脱するのは初めてで、前例のない離脱交渉が始まる。
離脱通知は、EU基本条約「リスボン条約」で加盟国の離脱手続きを定めた第50条に基づくもの。6ページの書簡が、EU首脳会議のトゥスク常任議長(大統領に相当)に手渡された。書簡でメイ氏は「EUとの深く特別なパートナーシップ」という言葉を7回も使い、経済や安全保障での連携強化を求めた。同時に、早期の自由貿易協定(FTA)交渉を提案した。
条約が定める交渉期間は原則2年。延長するには全加盟国の合意が必要だが、現時点では英国、EU側ともに延長を求めない方針だ。EU側で交渉を率いる予定のバルニエ欧州委員会元副委員長は、来年10月ごろまでに交渉を妥結させる考え。順調に進めば、2019年3月にも離脱が実現する。
ただ交渉は難航が予想される。焦点とみられるのは英国のEU拠出金の負担とEU市民の権利保障だ。
EU側は、英国が拠出に同意済みで未払いの事業費などの支払いを求める構え。請求額は600億ユーロ(約7兆2千億円)ともいわれている。英国は一定の拠出と引き換えに、迅速なFTA締結などを求めるとみられるが、英国の世論は支払いに反発しそうだ。
英国に住む推定320万人のEU加盟国民と、他のEU諸国に住む英国人約100万人の権利の保障は、双方が「最優先事項」に位置づける。ただ英国では移民の受け入れ削減を望む声が強く、EUの他の国の国民が福祉手当などを受け続けることには批判がある。
英国は1973年にEUの前身、欧州共同体(EC)に加盟。しかし昨年6月の国民投票で離脱51・9%、残留48・1%のわずかな差でEU離脱を決めた。(ロンドン=渡辺志帆)